幸せを受け止めて~騎士団長は月夜に淑女をさらう~
騎士団内に上手く自分の居場所を見つけられていなかったクララは、
最近はよく厩舎で過ごしていた。
ラーデマッハー伯爵家の邸宅には大きな馬場があり、
クララは小さい頃から馬に囲まれて育ったため、馬が大好きなのだ。

「よしよし、良い子だね~」
厩舎の馬たちの背中をブラッシングしながら、
クララは馬たちに話しかける。
クララの言葉に馬たちが返事をくれるわけではないけれど、
十分に心がつながっている気がしていた。

「こんなところにいたんだね。」
クララが馬の世話に勤しんでいると、
突然厩舎の入り口から声がする。
「団長、どうされたのですか?」
上官の登場に、思わず声が上ずってしまう。

「クララの姿が見えないな~と思ってね。最近は厩舎にいるの?」
「私、馬が好きなので馬のお世話を勝手にしていたんです。」
「そっか。最近馬たちの毛艶が良いなと思ってたんだけど、クララのおかげだったんだね。ありがとう。」
自分が好きで勝手にやっていたことなのに、やはり誰かに褒めらると嬉しいものだ。
クララがそっと横に目をやると、ギュンターは馬の背中を優しく撫でている。
「馬は賢い生き物だからさ、人間のことよく分かってるんだよね。軍馬なんて気性が荒いものが多いのに、こうして大人しくしているのはクララの真心が伝わっているんだろうね。」
団内ではあまり褒められることがないからか、
ギュンターからの何気ない一言がもの凄く嬉しく感じる。
クララは上手く言葉を返せないでいた。
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