捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました2
 穏やかで優しい微笑みが。
 愛しげに私の名を呼ぶ声が。
 私を見つめる夜空の瞳が。
 いつも私を導いてくれる大きな手が、どこにもない。

「どこにいるの?」

 ねえ、アレス。
 私、ようやく知ったわ。

 テノールボイスの声も、夜空のような瞳も、大きな手の温もりも。
 とっくに私の半身になっていたのね。

 最愛の番を奪われそうになる竜人の気持ちが、どれほどの悲哀と激情を生むのか。

 喪失感? いいえ、そんな簡単なものじゃない。
 怒り? いいえ、そんな生やさしいものじゃない。

「私の番をどこにやったの?」

 私の中であふれ出した感情が渦をまく。
 そこにあるのは、敵を滅するための憎悪と、発狂しそうな焦燥。
 番に対する竜人の愛の深さを知らない、愚かな者たちへ制裁を。
 私の言葉は届いていないのか、目の前にいるふたりの男は言い争いをやめない。

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