捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました2
「恐れ入りますがすぐに夫が戻ってまいりますので、少しお待ちいただけますか?」
「その必要はないと思いますよ。アレス殿下はセラフィーナがもてなしております」

 ハイレット殿下の言葉を聞いて、湖面が波打つように私の心も揺さぶられた。

 私のアレスに、あのセラフィーナ皇女が近づいているの? 私の見えないところで?

「誤解しないでください。私はただ、魔道具の話がしたいのです。その間、アレス殿下が退屈されないようセラフィーナに相手をするように頼んだのです」
「魔道具のお話でしたら、アレスがいても問題ありませんわ。素材集めについては私より詳しいですから」
「そうでしたか、そうとは知らずに申し訳ない。ですがせっかくなので、ダンスもご一緒いただけませんか?」

 それでも執拗にダンスに誘うハイレット殿下に様子に、昨夜アレスが言った言葉が蘇る。

『お嬢様、あの皇太子の視線に気が付かなかったのですか?』

 いや、そんなはずはない。だって私はもう結婚しているのだ。アステル王国の時だって、そんな風に言い寄ってくる男性はいなかった。それにハイレット殿下には婚約者がいるし、アレスが心配しすぎなだけだと思う。

 現に柔和な笑顔を浮かべたハイレット殿下は、真っ直ぐなプラチナブロンドの髪を揺らして、翡翠のような緑眼を細めている。その瞳の奥は春の陽だまりのように穏やかだ。
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