夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
「久しぶりだけど,君が元気しててよかった」



その人の纏う空気が緩んだ。

ニコニコとしたその笑顔に,またいつもの沈黙が流れる。



「えっと……それで?」



まさかそれだけでは無いだろう。

その人からは,なんと切り出そうか悩んでいるように,俺を探る気配があった。



「親御さん,出掛けてるの?」



ふと思い出したような,白々しい問い。



「朝から出掛けてるけど,それが?」

「いつ帰ってくるの? お昼?」

「さあ……もっと後じゃないかな」



目の合わない会話にも気付いていたけど,大した質問でも無いためにすらすらと答えてしまう。

そんなことを聞くのが,本当の目的とは思えない。

寧ろ,目的遂行のための,確実なピースを集めているみたいな。



「じゃあ……春陽くんは?」



同じく簡単な問いなのに,すぐには答えがでなかった。

寸前まで合わなかったはずの視線は俺を捉え,俺を逃がそうとしない微笑みが圧をかける。



「2階に,いる,けど」



それが,なに……?

防衛本能がその人を恐れながらも,すっかり懐柔された心が打ち明けた。

彼女は一歩,そっかと後ろに下がる。

注視する俺に,その人は言った。



「いい忘れてた。今日は急でごめんね。今日はね,逢いに来たんだよ」

ー君と,春陽くんに。


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