夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。



「やあ,初めまして!」



片手をあげて,また鈍感な振りをするよ。

君の目を見て,きっと大丈夫だと安心した心を隠すために。



「だ,だれ? ……勝手に入ってくんなよ,不法侵入…」



そうすればきっと,正体を知りたくて,何かを尋ねずにはいられないから。



「えー,私? 違うよ,ちゃんと君のお兄ちゃんに入れて貰ったんだから。堤くんの友達の,三好(みよし) 好暖(このん)。よろしく」



ついこの間知ったばかりの名前を,図太く口にして,空気を読まない顔でにっこり笑った。

"君",だなんて,ほんとはそんなキャラでもないのにさ。



「おはよう。急にごめんね,春陽くん。逢いたかった」



ぱちんと手を叩く。

春陽くんの目が,ようやく私の存在を理解した。



「ここ,俺の部屋なんだけど……あがるなら,向かいの部屋にして」

「やだ」

「それに,さっき。兄ちゃ……文世(ふみよ)追い出して,なにやってんの」



文世って言うんだ。

顔に出さないようにしないと。

そんなことを考えて,口元を綻ばす。



「だから君に,逢いに来たんだよ。是非気軽にこのんって呼んで」



最初に口にしたことを,もっと分かりやすく伝えた。

すると,予想の範囲内とは言え,勘の悪くない春陽くんが傷付いたような顔になる。



「……は,お節介,とか?」



何を聞いたの,何をしに来たの。

全部全部顔に出る春陽くんは,やっぱりまだ中学生で,素直で,なんだか私が泣きそうになる。



「さあ,どうだろうね」



何のこと? って言うみたいに。

しらじらしく惚けてみる。

全部全部,伝わってしまう声で。

だって私,嘘をつくのは嫌だけど,ほんとのことを言うのは嫌い。

春陽くんとは,違うから。
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