夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
うつ向いた俺に,彼女ははふんわりと笑った。
よく笑う人だ。
でもどの笑顔も意味を持つように違って見える。
「ここにはよく来るの? 私は初めて君を見たんだけど」
それは暗に,自分はよく来るのだと示していた。
それに気づいているのかいないのか,彼女は全てを隠すニコニコとした表情を浮かべている。
「まあ……最近は頻度も多いかもしれないけど」
「……じゃあ私は,君にとってのその仲間に入れて貰おうかなっ」
突如,飛び乗ったときと同じく勢いをつけて飛び降りた。
俺にとっての……って。
心が冷える。
関わりたくない,正面から見たくない。
「なに,死にたいの。どうかと思うよ,他人にそんなことを打ち明けるのは」
どうしたらいいのか,どうして欲しいのか分からないから。
そんなものは迷惑だ。
こんな時間にこんな場所,その人の紛らわしい全てに,自殺志願者なんてそんな推測をした俺は。
「ん? 別に死ぬ予定はないけど。それくらい仲良くなりたいって事だよ。真面目だね」
口調は手の中を溢れる水みたいに軽いのに,どこか熱のこもったその笑みに見惚れてしまった。
死にたくない,消えたくない。
今を生きる彼女は,時間の中を泳ぐように。
俺の目の前,薄暗い夜に微笑んでいた。