夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。


うつ向いた俺に,彼女ははふんわりと笑った。

よく笑う人だ。

でもどの笑顔も意味を持つように違って見える。



「ここにはよく来るの? 私は初めて君を見たんだけど」



それは暗に,自分はよく来るのだと示していた。

それに気づいているのかいないのか,彼女は全てを隠すニコニコとした表情を浮かべている。



「まあ……最近は頻度も多いかもしれないけど」

「……じゃあ私は,君にとってのその仲間に入れて貰おうかなっ」



突如,飛び乗ったときと同じく勢いをつけて飛び降りた。

俺にとっての……って。

心が冷える。

関わりたくない,正面から見たくない。



「なに,死にたいの。どうかと思うよ,他人にそんなことを打ち明けるのは」



どうしたらいいのか,どうして欲しいのか分からないから。

そんなものは迷惑だ。

こんな時間にこんな場所,その人の紛らわしい全てに,自殺志願者なんてそんな推測をした俺は。



「ん? 別に死ぬ予定はないけど。それくらい仲良くなりたいって事だよ。真面目だね」



口調は手の中を溢れる水みたいに軽いのに,どこか熱のこもったその笑みに見惚れてしまった。

死にたくない,消えたくない。

今を生きる彼女は,時間の中を泳ぐように。

俺の目の前,薄暗い夜に微笑んでいた。
< 5 / 47 >

この作品をシェア

pagetop