† of Sword~剣の粛正
「どうだい、目が覚めてから。なにか困ったこととかはあるかい?」

「困ったことは……ありません」

ある、と答えようと思ったが、特別なこと以外、実はそれほど困っていないので、あえてやめた。

入院生活に不便はつきものだろうが、思ったよりも食事は美味しいし、必要なものは母が持ってきてくれる。

誰もが優しい。むしろ、こんな惰性的な生活を送っていていいのだろうかと罪悪感を覚える。入院費だってタダじゃない。

そういえば、心情的に困ったことに違いはないのだが、彼が問うたことはそういうことじゃない。

しかし、

「でもさっき、またメガネがないことを忘れていたね。それには困っていないかい?」

「……少し」

彼のガラス玉のように透き通った目には、どんな些細なことも見透かされているらしい。あえて困っていないという分類をしたことさえも、簡単に言い当てられた。
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