† of Sword~剣の粛正
そしてまた、メガネをかけさせられる。レンズが私の視界に広がると、彼の姿はまた消えた。

メガネに触れながら、ふと、気になった。誰もいないように見える椅子のほうへ、顔を向ける。

「真実が見えることの、なにが悪いんですか」

「悪くはないよ。けど、つらいことばかりさ」

「つらい?」

「そう。世界にはね、不必要なものはないんだ。不必要なものは、つまり定義されない。定義されなければ、言葉にならない。

人間が理解しているものにはおおよそ、名前というものがついているよね。嘘には嘘という名前がある。つまり、必要なことと定義されてるんだ」

「でも、わざわざ隠さなければいけないくらい、嘘は日常で必要なことなんですか。見えるところ、至るところにそんなに、嘘があるんですか」

「うん、まあ、需要は高いよ」

彼が立ち上がったようだ。コツン、コツン。と革靴で床を踏み、窓のほうへ移動する。

ちらりとメガネを外して見ると、彼は後ろ手を組み、外を眺めていた。薄暗い灰色のガラスに、彼の姿がうっすらと。


もっともそれすら、メガネをかければ消えてしまう。
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