† of Sword~剣の粛正
隣の車線を車が追い越していく。すれ違う際の風圧が、フォン、フォンとよく聞こえる。

そればかりか、向かいの大学生の音楽、横の男のページをめくる音まで。

あまりに、静か。チャカ。

私は学生鞄を膝に抱え、目を閉じた。

そもそもこんなバスに乗っている理由は、不覚にも寝坊なんてものをしてしまったから。

昨日、遅くまで本を読んでいたのが祟ったらしい。

一度はいつもの時間に起きていながら、そのまま二度寝とはとんだミスだ。

外は雨が降っている。

バスが信号で止まった。チャカ。

屋根を打つしずくの音が聞こえる。チャカチャカ。

バス特有の長いワイパーの動く音も。

あまりに、静か。チャカチャカ。

大学生のヘッドフォンの音漏れが――チャカチャカ――気に障る。

一呼吸置いて、左……つまりバスの進行方向を見ると、ちょうど信号が青になった。

外の景色を見て、下車する駅まであといくつか数える。

「次は~、大木駅前~、次は大木駅ま」

唐突に――

「?」

運転手の声が、途切れた。
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