† of Sword~剣の粛正
どうかしたのだろうかと思った。思って、首を傾げようとした私は――体が動かなかった。
なぜ?
おかしい。
動かない視界の中に、本を読んでいた男が見える。その手が、ページをめくる途中で不自然に止まっていた。
バスのワイパーも。つり革も。窓を落ちる雨粒も。『停止』するにはおかしい状態だった。
時の止まったように、世界は、あまりに静か。
チャカチャカチャカチャカ。
ただ、大学生のヘッドフォンからの音漏れが、聞こえる。
いや……そうではない。
「ふ、ふふふ」
大学生だけが、動いていた。
なにもかも『停止』している、静かな世界で。
視界には入らない私の右側で、男が笑う。
「よし、よし……今日は第四節で、か……。いいぞいいぞ。我ながらどんどん上手くなってる、感覚が掴めてきた」
独り言、らしい。やけに自己陶酔した独り言だった。
いったい、この世界の静けさはなんなのだろう。
バス一本遅れた私は、ひょっとしたら本当の本当に、地獄のふちに向かうバスに乗ってしまったんじゃないだろうか。
まったく動かすことのできない首、眼球を差し置いて、脳だけが疑問の浮沈行為を繰り返す。
そんな静寂と硬直の狭間に取り残された思考は、そうしてまったくの突然、ブラックアウトした。
31
なぜ?
おかしい。
動かない視界の中に、本を読んでいた男が見える。その手が、ページをめくる途中で不自然に止まっていた。
バスのワイパーも。つり革も。窓を落ちる雨粒も。『停止』するにはおかしい状態だった。
時の止まったように、世界は、あまりに静か。
チャカチャカチャカチャカ。
ただ、大学生のヘッドフォンからの音漏れが、聞こえる。
いや……そうではない。
「ふ、ふふふ」
大学生だけが、動いていた。
なにもかも『停止』している、静かな世界で。
視界には入らない私の右側で、男が笑う。
「よし、よし……今日は第四節で、か……。いいぞいいぞ。我ながらどんどん上手くなってる、感覚が掴めてきた」
独り言、らしい。やけに自己陶酔した独り言だった。
いったい、この世界の静けさはなんなのだろう。
バス一本遅れた私は、ひょっとしたら本当の本当に、地獄のふちに向かうバスに乗ってしまったんじゃないだろうか。
まったく動かすことのできない首、眼球を差し置いて、脳だけが疑問の浮沈行為を繰り返す。
そんな静寂と硬直の狭間に取り残された思考は、そうしてまったくの突然、ブラックアウトした。
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