† of Ｓword～剣の粛正

体が、いやに軽く動く。目玉だけじゃなく、首も簡単に。

あれだけ凪いで静寂だった世界も、身体も、精神も、急に音を取り戻していた。

窓を小刻みに叩く雨音、胸中で震える心音、疼くように頭を締め付ける彼の言葉、なにもかもが突然、私の中でさざ波になる。

右へ回り左へ回り、それは螺旋となって、粒を大きくして、落ちていく。

私が横たわっているベッドの右手には、一定の感覚でリズムを打つ波長測定器が置かれ、腕にはチューブが繋がっていた。手で触れてみてようやく気付いたが、鼻にもチューブが。

どうやら私は、病院のベッドに沈んでいるらしい。服も着ているし……右手に、剣も握っていない。

だとしたら、あの彼は夢だろうか。私が死んだというのも、死についての難解な理論も、†という奇妙な単語も……夢、だろうか。

それにしては、ずいぶんと記憶がハッキリしすぎている。そもそも、†とはなんだろう。

今までどんな本ですら読んだことのない、ましてや聞いたこともない単語、そして日本語とも外国語とも判別できないこれを、いったいいつの間に私は学習したのだろう。