† of Sword~剣の粛正
それにしても、男の顔に動揺が浮かんでいる。

なぜ?

数秒、本当にわからなかったが、得心した。

試してみる。

「†」

「? ――は?」

「……†です」

「お前、ふざけてるのか?」

得心は、いよいよ確信に変わった。

「まあいい。お前がふざけていようがいまいが、ここでもう一度、殺してやるとも」

そう、男は†という単語を聞き取ることができていない。

「今度はふざけずに、しっかり死ねよ? 俺の実験のためにね」

つまり、境界線については私よりも無知で、未経験であるにもかかわらず、私に経過を無視した死を叩きつけてくれたのだ。

そればかりじゃない。私を殺し、私の両親を心配させ、私をこんなにも静かにさせた。

いや、そればかりでも、そればかりでもない。

私のような存在を、あるいは、私よりもさらにひどい世界を、この男は振り撒いているのだ。

あまりに、身勝手に。
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