† of Sword~剣の粛正
「頭の中へ旋律を流して、それを術者が任意で発言させる。すでに魔術は『音』という現象で世界に影響を始めてるからね。あとは術者の合図だけさ。たとえば、指揮者が棒を降るようにね。それにこのマジックレコードには面白い恩恵があって、」

「お前、黙れよ!」

男が廊下に怒声を響かせて遮り、地団駄を踏んだ。

バン、バン、という安っぽいスニーカーの靴音と男の声が、情けない木霊となって廊下の向こうまで抜けていく。

「なんだよお前! 俺が苦労して研究してるもんを、そんなあっさりと説明しやがって! それだけを実現させるのに、俺がどれだけ実験を繰り返してると思うんだ! なんならお前も実験材料にしてやろうか!?」

「実験か。陳腐だね。できるものなら、やってごらんよ」

「っっ、お前……!」

挑発にぶるりと男の肩が震えた。ヘッドフォンのボリュームをあげる。

チャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカ。音漏れがうるさい。

その漏れている『音』が、マジックレコードなのだろう。
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