吸血鬼令嬢は血が飲めない
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……私スアヴィスは、お嬢様のためなら何でも致します。
お嬢様が健やかに育つためならば、10頭でも20頭でも獣の血を搾り尽くすことを厭いません。
お嬢様の平穏な暮らしを脅かす退治人や聖職者の類を、気配一つ漏らすことなく排除してまいりました。
これまで、幾度も、何年も、何十年も。
それなのに、お嬢様。
「あぁ…あぁあ……お嬢様…。」
私は我が耳を疑いました。
私のレギナお嬢様。
小さく、か弱く、臆病な、寂しがり屋な、私だけのお嬢様が、
「…なぜ…?」
なぜ、私ではなく、ただの血肉の生き物を選ぶのです…?
「お嬢様…それほどに、人間の娘が大切なのですか…?私よりも…?」
私はバートランド城の執事です。
ご主人様が地の底に沈んでから100余年。バートランド城の、レギナお嬢様の平穏を守り続けてきた、有能な執事です。
有能な執事ならば、主人の言葉無きご要望も推察すべきでしょう。
お嬢様の秘めたるお考えは、しっかりと理解致しました。
「…はい。承知致しました。
なんて、いじらしいお嬢様…。
“私と遊びたい”のですね?
幼い頃の、人間狩りの続きを今なさっている…そうなのですね?」
そうだ。お嬢様が私以外の存在を選ばれるはずがない。
だって、“お約束”しましたものね…。
「人間の娘さえいなければ、貴女を惑わすものはもう存在しなくなりますね…。
…畏まりました、お嬢様。」
そうしてようやく私は羽を広げ、地に付けていた足をふわりと浮かせるのです。
お嬢様の居場所は、匂いで分かります。
ですが、すぐに決着が付いては面白くありませんよね?じっくり、ゆっくり、遊んで差し上げますからね…。
私の…
「……レギナお嬢様。」