毎朝、甘い
第1話
○早朝の公園
朝、はっ、はっと息を切らして公園をジョギングする唯。(容姿:小柄 髪型 ボブ ジャージを着てる)
唯(あー、やっぱ早朝ジョグは気持ちいーなー…
昨日はへこんでたけど…)
回想 ○ 昨日 新学期初日の教室で
生徒A「クラス委員かー吉田でいいんじゃね?」
生徒B「そうだよね。経験者がいいよね、やっぱし」
女子生徒A「吉田さーん。お願い、クラス委員やってえ」
女子生徒B「いいね。決まりだね」
唯「えっ、あの…あー…はーい…」
しぶしぶ受け入れる唯
唯(はあ…またクラス委員長になっちゃった…同中の人がいて嬉しかったけど、こういう展開になるとはね…まあ、部活してないから、いいけど…)
ふと、木陰のベンチに誰かが仰向けに寝ているのが目に入る。
唯(こんなところで寝るなんて…え?うちの高校の制服の男子?)
思わず、ベンチに近づく唯。
唯(どうしたんだろう、部活に行く前にちょっと休んでいるとか…でも本気で寝てるよね)
寝ている男子の顔のアップ。
唯(茶色い髪の毛サラサラ、睫毛の長い、綺麗な顔…口開けてるけど)
男子のあいた口に舞っていた木の葉が入りそうになる。
唯(あ!入っちゃう!)
唯、思わずその葉っぱが口に入るまえに手で受け止めようとする。勢い、よろけて男子に覆いかぶさる。
唯(や!近っ…!)
かあっと赤くなる唯。体勢を立て直そうとした瞬間、ばちっと男子の目が開く。
男子「…おはよう」
ふっと唯子の頭を抱え、キスをする。
唯(…!!)
唯、慌てて男子の胸を押して飛びのく。
唯「わ、私のファーストキス…!!」
男子「あれ…委員長。どうして…?」
男子、ゆっくりベンチから起き上がる。
唯「い、委員長って…同じクラス…?」
唯、顔が赤いまま言う。
レオ(男子)「おお。同じクラスの竜崎玲王。まだわからねえよな。昨日新学期始まったばっかりだし。でも、なんでここにいるんだ?」
唯子「私は早朝ジョギングで…竜崎君こそ…」
レオ「俺は、昨日帰りが遅くなってさ。ちょっと休んだら朝だった、みたいな?」
唯(帰りが遅い?!こういう人がパリピってやつ?!サチ姉ちゃんが言ってたやつだ!)
回想 ○唯の部屋 従姉妹で五歳年上のサチ姉ちゃんが遊びに来てる。サチ姉ちゃんの容姿:茶髪で髪の毛先カールしてマスカラで睫毛ばっちり、フルアイメイク。
サチ姉「唯、高校合格おめでとう。でもさー気をつけなよー。高校って中学と違っていろんな地区から来るじゃん。やっぱさーそん中にパリピとかいるわけよ。すごい遊んでて世界違うからさあ、唯、目をつけられないようにしなよねー」
唯(絶対そうだ。竜崎君は、危険なパリピ…!)
レオ「まだ五時半か。ウチ帰ってシャワー浴びれるな」
レオ、制服の埃をぱたぱたとはたいて
レオ「委員長朝型なのか?早起きだな」
レオ、唯の頭をぽんぽんする。
唯またかあっと赤くなって
唯(スキンシップ多い!パリピだから?)
歩き出すレオ。
唯(私も、帰ってお弁当作らなきゃ…うう…ファーストキス…)
動揺が消えないまま走りだして公園を出る唯子。
振り返ると、レオがいる。
唯(何、なんなの?つけられてる?やっぱパリピこわ~!)
泣きそうな顔をしているとレオと目が合う。
レオ、ぱっと真顔になって唯に駆け寄る。
レオ「あのな、つけてたんじゃなくて、俺のウチ、あの水色のマンション」
唯「へ?水色って…ウチもなんだけど」
レオ「あ、じゃあ同じマンションだな。俺、三日前にここに引っ越してきたんだよ。303号室」
唯、真っ青になる。
唯(うちは302…ってことは)
唯「お隣さん?!」
唯大声で叫ぶ。
----------
第2話
○302、303号室の前で
レオ「じゃ、お隣さんってことで、よろしく」
唯(嘘…ファーストキスの相手がお隣って頭ついていかない…)
○唯の家、キッチン・リビング 7 :30
唯、暗い表情のままサンドイッチを作る。制服にもう着替えてる。
唯の母「おはよー」
唯「おはよー。ゴハンできてるよ」
母「助かるわー。昨日の仕事終わらなくて寝たの三時だったから」
唯(お父さん亡くなってから、お母さん働きづめだからな。手伝ってあげないと)
唯「お疲れ様。ねえ、お隣って引っ越してきてたの、知ってた?」
母「ああ、そういえばドアのとこに段ボールたたんであったわね。三日くらい前」
唯「そうだったんだ…何かね、そこの子が同じクラスの男子っぽい…」
母「え!そうなの?じゃあちゃんとご挨拶しなきゃね!もらったオレンジあるから持って行きなさい!」
唯「え、でも早朝だし」
母「お子さんのいるご家庭は朝早いわよ。ピンポン押して出られなかったら、また出直したらいいわ」
○303号室の前
唯、気の進まないまま、オレンジの入った袋を持っていく。
暗い表情のままピンポンを押す。
が、何の反応もない。ドアの隙間が開いている。
唯(また竜崎君と会いたくないな…玄関先にオレンジ、置いておこう)
ドアを開けると、突き当りのソファにレオが寝ている。口を開けてガチ寝。しかも上半身が裸。肩にタオル、下はジャージ。
唯「え、もう8時近いのに、何の支度もしてないってやばいんじゃない?」
色々葛藤するが、思い切って玄関にあがり、レオの肩を叩く。
レオ「あれ…委員長…また…なんで」
唯「あの、玄関あいてて、そしたらガチで寝てるから、遅刻するって思って…」
レオ、ふわっと唯をハグする。
レオ「…サンキュ。助かった」
唯(キャー!!)
唯じたばたして、ハグから逃れようとする。
唯「ちかちか…近いっ!!」
やっとレオ、唯を解放する。レオ、きょとんとした表情。
レオ「感謝のハグ、な。あー、委員長、悪いけど、朝、俺のこと起こしてくれねえかな…俺、朝めっちゃ弱くて」
唯「どうして私が!」
レオ、にやっと笑って
レオ「俺、院長の声、結構好き」
唯(す、すすす、好きって…!!)
好きという言葉に反応して目がぐるぐるの唯。
唯(好きっていきなり…!ま、待て。落ち着け、私。告白されたわけじゃないんだから)
唯「私に頼むんじゃなくて、おうちの人に頼めばいいじゃない」
赤くなりながらも、冷静に言う。
レオ「俺、一人暮らしなんだ。実家はS市。この部屋、叔父貴が税金対策で買ったやつ。使ってないから住ませてもらってる」
唯「あ…そう。だ、だからって私が起こす理由にはならないでしょ。じゃ」
玄関に戻る唯。
靴をはいたところに、さっとレオがやって来る。
唯を玄関の壁に壁ドン。
いきなり顔を近づけられ、真っ赤になる唯。レオ、真顔でささやく。
レオ「どうしても…?」
唯、緊張感に耐え切れず、視線をずらすとレオの裸の胸。
唯「は、早く服着てっ!!」
体をかがめて、レオの腕から逃れ、ドアを開ける。もう少しで閉まるところで、唯、レオに振り返って言う。
唯「また寝ちゃダメだよっ…!」
微妙に上目遣いで、でも顔が赤い。レオ、ぐっとくる。
ドアが閉まる。残されたレオ、くすっと笑う。
○教室で 午前中の休み時間。
派手めな女子達が「竜崎君ってばー」などレオを囲んで騒いでる。机一列分空いた席から唯とまな(同中で前から仲がいい)がレオたちを見ている。
まな「すごいね、竜崎パワー。目立つ女子、ほとんど竜崎のトリコじゃん」
唯「見た目がいいだけじゃない?」
まな「うん?唯にしては否定的意見。珍しい。なんかあった?」
唯「ううん、別に…」
唯(言えない…まなちゃんにも言えない…キスされて壁ドンされたなんて学校でバレたら私、学校で居場所なくなる)
派手女子「じゃあさー、竜崎の好きな女子のタイプってどんな感じー?」
レオ「あー…好きな声とかなら、ある、かな」
レオ、若干、だるそうに言う。
派手女子「ええー、どんな声?」
レオ「そうだな、身近な例で言うと委員長」
唯の表情が「!」に変わって叫ぶ!
唯「竜崎君!先生が呼んでたよっ!」
ダッシュで唯、レオのところに走り、ぐいぐいレオの腕を引っ張り教室から連れ出す。
○校舎裏
唯、キョロキョロして人がいないか確認。
唯「ここなら大丈夫そう…」
レオ、クスッと笑って。
レオ「何だ。告白が始まるのか」
唯、レオをぎろっと睨む。
唯「違うでしょ!竜崎君が軽々しく、私のことを言おうとするからでしょ!」
レオ「委員長の声が好きってのは事実だから、よくね?」
唯「ダメ!ただでさえ委員長やらされて浮いてるのに、竜崎君の隣に住んでるとか、竜崎君に壁ドンされたとか、竜崎君にキ」
キスされた、と言ってしまいそうになり、慌ててやめる。顔が真っ赤。
唯「とととにかく!竜崎君と私はクラスメートってだけなの!他に接点なしの設定にして!じゃないと女子から総スカンだよ。毎日やっかまれて嫌がらせされて高校生活闇に転じるから!」
------------
第3話
キョトンとするレオ。
レオ「委員長と俺はクラスメートっていうだけの設定か」
唯「そう!そうして!」
レオ「いいよ」
唯(!意外とすんなりOKしてくれた!)
めっちゃ喜びの表情の唯。
レオ「その条件飲むから。朝、起こしてくれねえかなー」
唯、そうくるとは思わず、たじろぐ。
唯「ううっ、ず、ずるい…!」
レオ「ずるくないだろ。俺の自由の一部を奪っているわけだから、それくらい、いいだろ。じゃ、明日から7時に起こして。俺、鍵かけないから、勝手に入ってきていいぞ」
唯「だ、ダメ!不法侵入になっちゃうでしょ!」
レオ「俺が許可してるんだから、大丈夫だろ。ってか、必死で逃げようとしてるな」
唯「もちろん!」
レオ「じゃ、教室に戻って委員長がお隣さんって皆に」
唯「やらせていただきます!」
唯、必死の顔で叫ぶ。
唯(ううっ、どうしてこんなことにー!!)
○教室 授業中
唯(うう…竜崎君がお隣さんってだけでこっちは事件なのに…!さらに毎日、起こして、とか、ない!)
溜め息をつく唯
唯(いや…百歩譲って、朝起こしに行くのはいいとして…また起き抜けにキスされるんじゃないかって事…!)
唯、かあっと赤くなる。
唯(こないだみたいにさらっとやられたら!汚れていく、私の純潔が!乱されていく、あのパリピ人に!それだけは、阻止しないと!)
教師「じゃ、明日は小テストやるから、今日のとこ、復習しとけよー」
ざわざわしだす教室。教師が出ていき、休み時間になる。
まな「唯、昨日、ハルヤのキスシーン見たー?」
唯、ギョッとする。キスのことを考えていたので、タイムリーすぎた。
唯「ごめん、見てない。どんなシーンだったの?
まな「海辺で、ぎゅっと抱きしめてね、さりげなく顔を近づけて」
唯「さりげなく…慣れてると、さらっとできるもんなの?」
まな「そうじゃない?慣れてないと、キスしていい?とか、聞くよね」
唯(やっぱりパリピ人は違うのね!慣れてるからいきなりできるんだ!じゃ、私毎朝危険にさらされるってこと?!)
まな「唯、顔色悪いけど、大丈夫?」
唯「う、うん」
唯(まなちゃんに聞いてもらう?いや…もうちょっと様子みてからにしよう)
○放課後の教室
またレオの席の周りに女子の群れ
女子A「竜崎君、お茶して帰ろうよー!」
女子B「それより買い物行かない?竜崎君、センスいいから選んでー」
レオ「ん。わり。用事あるから」
机一列分離れた席から横目でレオたちを見る唯。
唯(ふーん、クラスの女子達とは遊ばないんだ…じゃあ仕事に疲れたOLのお姉さんとお酒飲むとか、他校の生徒とクラブに行くとか…あー、わかんない違う星の人すぎて想像追いつかない!)
まな「唯?なんか今日、よく竜崎の方見てない?」
唯「え?そんなことないよ!気のせい。気のせい。さ、帰ろ」
教室から出て行く唯の背中を見つめるレオ。ニヤッと笑う。
○翌日。 唯のうち、リビング。朝6:58
唯「えーと、洗濯ものは干したし、お弁当も作った。朝ごはん食べてお母さんの分もある、と…」
時計、7:00を指す
唯(ついに来た…!はあ、気が重いなあ…でも約束だし)
唯、うちから出てレオのうちへ。言われたとおり鍵はかかっておらず、玄関にすんなり入れる。誰もいないリビング。
唯「えっと…こういう場合は、竜崎君の部屋の入っていいの、かな」
おそるおそるリビング奥の部屋に向かう。
細めにドアを開けると、ベッドにうつ伏せに寝ているレオ。
唯そろそろと近づく。
唯「竜崎君、起きて…」
ちょっとためらうが、肩をポンポンと叩く。反応がない。
唯「竜崎君」
腰をかがめて、レオの頭に顔を近づけた瞬間、ガバっとレオに抱きつかれる。
唯(きゃー!)
唯、顔、真っ赤に。
腕をじたばたさせて、なんとかレオの腕から逃れ叫ぶ。
唯「竜崎君!私は抱き枕じゃないよ!」
レオ、パチッと目を覚ます。
レオ「あれ?委員長。これ、夢の続きだろ?」
唯「違います!リアルな朝!起こしてって言われて、起こしに来たの!」
レオ「あ」
レオ、ベッドに座りなおす。
レオ「すげえ。本当に来た」
驚いた顔のレオ。唯はまだ心臓バクバクで、顔が赤い。
唯「や、約束したから…」
レオ「真面目だな。そこがいいんだが」
ストレートな言葉に、さらに顔が赤くなる唯。
唯「じゃ、約束は果たしたから」
レオ「あ、昨日置いてあったオレンジ、うまかった。おかげで昼までもった」
唯「え?」
唯、真顔に戻って振り返る。
唯「ちょっと待って。朝ごはん、オレンジですませたの?!」
レオ「うん。だからうまかったって」
唯「ダメだよ!朝ごはんは、一日の要だよ!ちゃんと、食べないと!今日も用意してないの?!」
レオ「ああ。もらったオレンジ、まだあるし」
唯「竜崎君。起きて、顔洗って、制服に着替える。15分で、できる?」
レオ「あ、ああ」
唯「じゃ、スタート!15分後にね!」
びゅん!と唯、レオのうちから出て行く。取り残されたレオ、呆然とする。
レオ「…は?」
15分後。レオのうちのリビング。ダイニングテーブルに朝食が並ぶ。レオ、驚いた顔をしてそれを眺める。
唯「簡単なものしかないけど、オレンジだけよりいいでしょ」
レオ「これ、15分で作ったのか」
唯「サラダは作り置きがあったし、パンはトーストしただけだし、ハムエッグは4分でできるし」
レオ「すげ」
レオ、うやうやしく頭を下げ、手を合わせる。
レオ「いただきます」
唯(あ、あれ?意外と礼儀正しい?いやいやいやいただきますなんて、幼稚園児でもするから!)
レオ、黙々と平らげていく。
唯(食べ方もキレイ。ふ、ふーん…)
レオ「ごっそさん。うまかった」
レオ、頭を下げる。
唯「あ、あの…夢に、私が出てきたの?」
唯、顔を赤くしてよそ見をしながら。レオ、唯に手招きする。唯、レオに近づく。
レオ「秘密、だよ」
レオ、唯の頬に軽く、キス。ぱっと飛びのく、唯。顔を真っ赤にして。
唯「もうっ!パリピ人!」
ダッシュでレオのうちを去る。
○夕方。唯、学校帰りのスーパーで。買い物カゴをさげて品物を見てる。
唯「明日は何を作ろうかなー」
そう呟いて、はっとする。
唯「べ、別に竜崎君のためとかじゃないから!」
頬にキスされたのを思い出して、カアっとなる。
唯「…でも、きれいに食べてくれたし…朝ごはんくらい…」
肉をカゴに入れる。顔をあげると、同じ制服の女子が唯をにらんでくる。
女子「ねえ、あなた、レオの何?」
----------
第4話
○ スーパーで
制服女子「あなた、レオとどういう関係なの」
きつい目でにらまれる。
眼鏡をかけた秀才風。でもすごい美人。
唯「えっ、えっと…」
制服女子「私、見てたのよ。レオとあなた、昨日、校舎裏にいたでしょう」
唯(み、見られてた…!
どうしよ、何言ったっけ私…クラスメートっていう設定にしてとかなんとか…聞こえてたらやばい!)
制服女子「話しは聞こえなかったけど。二人でこそこそして。不愉快なんだけど」
唯(ふ、不愉快?そこまで言う?!でも聞こえてなかったならラッキー!)
唯「わ、私クラス委員長なんで、竜崎君に頼みごとをしてたんです」
制服女子「たのみごと?」
唯「そう…えっと竜崎君、クラスで人気あるから控えめな子たちにも声かけてね、って」
制服女子「…」
疑いの目つき。無言の圧力。
唯「新学期ってなかなかクラスに馴染めない子も多いから。竜崎君に間に入ってもらおうと思ったんです!」
制服女子「ふう…ん」
唯(な、なんとか乗り切った?!)
制服女子「そうだったの。確かにレオに声かけてもらったら嬉しいでしょうね。でも変にこそこそしないでね。レオは預かった身だから。じゃ」
にっこり笑って(笑うと美人度があがる)立ち去る。
唯、緊張がほどけてぐったり。
唯(な、なんなの…預かった身って何?こっちこそ竜崎君とどういう関係って聞きたいんだけど!
やっぱりパリピの世界ってわかんない!
でも…今の人、どこかで見たことあるような…)
○翌朝。レオの部屋。
唯「竜崎君、起きて!」
レオ「ん、んんっ…」
唯に抱きつきそうになるところを、唯は枕を抱かせてガードする。
レオ「な…んだよ」
唯「同じパターンは通用しないんだから!はいっ、起きて着替えて洗顔!」
レオ「ちぇっ、委員長抱き心地いいのに…」
唯、かあっと赤くなる。
唯「わ、私は抱き枕じゃないって言ってるでしょ!」
レオ、ふっと笑って。
レオ「今日も朝ごはん、あったりする?」
嬉しそうにきいてくるので、唯もちょっと嬉しくなる。それを隠そうとそっぽを向いたまま言う。
唯「…フレンチトースト」
レオ、唯の顔のすぐ近くまで顔をもってきて、ささやく。
レオ「…大好物」
唯「だ、だから、近いんだってば!」
○ レオのうちのリビング
レオ制服に着替えてフレンチトーストを食べる。
レオ「…ん。うま」
唯(やったーっ!って私、喜びすぎ!)
唯「そ、そう。よかった」
レオ「っていうか、委員長はもう食ったのか?」
唯「あ、私お弁当作るついでに朝ゴハンも作って食べるから」
レオ「弁当、自分で作ってんだ」
唯「うん。うちのお母さん、仕事で忙しいから、私ができるだけ家事やってあげてるの。朝の内にいろいろやっておくと、学校から帰ってゆっくりできるから」
レオ「ふーん…だからこの間もすっげえ早い時間に走ってたんだ」
唯「うん。朝の内に、早朝ジョグ、帰ってきてからお弁当と朝ごはん作り。それと夕飯の下ごしらえ。それに洗濯ものも干して軽く掃除もしてるんだ」
レオ「すげえ…スーパー女子高生じゃん」
唯「そ、そんなことないよ。家事の一つ一つは短い時間でできるし。中学の時からやってるから慣れちゃった」
レオ、ぴたっと食べるのを止める。
レオ「そんなに忙しいのに…悪かったな。俺の世話までさせて」
唯「え」
素直に謝られて、ドキッとする唯。
唯「いや、あの、えーと。つ、ついでだから」
唯の中のもう一人の自分が言う。
『ついでじゃないじゃん!昨日から今日の朝ゴハン何作ろうかなってあれこれ考えて大変だったじゃん!』
唯、もう一人の自分を押しのけて。
唯「まあ、そんなに凝ったゴハンでもないし」
レオ「そう?フレンチトーストって手間かけないと美味くないだろ。これ、充分凝ってるよな」
唯「え…竜崎君、お料理の知識があるの?」
レオ「うん?いや…まあ、いいや。言いたいのはありがとうってこと」
唯(えー!何、なんでこんなに今日は素直なの?調子くるっちゃう!)
唯慌てて、別の話題を考える。
唯「そ、そうだ。昨日、眼鏡かけた美人の人に竜崎君とどういう関係なのか、きかれたけど」
レオ「眼鏡…?あ、流衣のことか」
唯「流衣さん?って、竜崎君と」
唯(はっ、どういう関係なの、って聞こうとしてる!何食いついてるの、私!)
レオ「なんだ、委員長、気づかなかったのか。入学式で見ただろ」
唯「え?」
レオ「流衣だよ。生徒会長だよ」
唯「あ…あー!どうりで見たことある、と思った!」
レオ「まあ…流衣のことは、あんまり気にしないでくれ」
そう言って横を向き、顔を赤らめるレオ。
唯(えー!なに、何!赤くなってる!どういう関係なのー!気になるー!
それに、竜崎君ってパリピの癖に、生徒会長みたいな堅いタイプとつきあいがあるってどういうこと?な、なんか…訳ありっぽい…!)
思考がぐるぐるしてきた唯に、椅子から立って近づくレオ。
唯の手をとる。
レオ「家事やりすぎて荒れてんじゃね?…大事にしろよ」
ちゅっ、と唯の指にキスをする。
唯、かあっと赤くなる。
唯(いろいろ、気になるけどきけないよー!)
------------
第5話
○昼休みの教室
女子A「竜崎君、一緒にお弁当食べようよ」
レオ「あ、俺、学食派だから」
男子A「竜崎、学食か、俺もいこ。んで食い終わったらサッカーしようぜ」
男子B「おっ、いいな。それ。俺もいこ」
レオがわいわいクラスメートに囲まれている。それを教室のすみでお弁当をひろげているまなと唯が見ている。
まな「ははは、竜崎、女子だけじゃなくて、男子にも人気あるんだ」
唯「ほんとだね」
唯(パリピってやっぱ人気あるものなのかな…一人じゃパーティできないもんね)
生徒A「委員長、このプリントってどこ提出?」
唯「あ、職員室の林先生の机に」
生徒B「委員長、化学準備室ってどこ?」
唯「東棟の突き当たりだよ」
生徒C「部活やりたいんだけど、入部届けってどうすんの」
唯「明日、部活紹介の集会があるから、その時にわかるよ」
まな、はあ、と溜め息をつく。
まな「やっぱ唯、委員長向いてるわ。皆に頼りにされてるじゃん」
唯「うーん…先生が言ったこととかをちゃんとメモしてるだけなんだけどね…」
まな「皆、結構、先生の話とか聞いてないもんね。よっ、このしっかり者!」
唯「…まなちゃん、私に何か頼みごとがあるでしょ」
まな、てへっと笑う。
まな「実はそうなの。今日、当たるかもしれないから宿題、教えて!」
唯「そんなこったろーと思ったよ。はい、昨日の宿題、やってあるよ」
唯、まなにノートを渡す。
○授業中
教師A「おー、じゃ、昨日の宿題の答え合わせから。今日は、ランダムにいくぞ。じゃあ、吉田。練習問題のBを黒板で解いてみろ」
唯「は、はい」
唯、ノートをめくる。
唯(あっ、あれ?練習問題のBだけ、とばしてる!やってない!)
唯「あ、あの…」
教師A「なんだ、やってないのか。委員長なんだから皆の模範にならなきゃダメじゃないか」
唯(宿題やったのに…ここの問題だけとばしてる、なんてドジ!)
かあっと赤くなる。
レオ「せんせーい」
レオがさっと手をあげる。唯、びっくりしてレオを見る。
レオ「俺、この問題解きたい。ダメっすか」
唯(え…?)
教師A「なんだ、竜崎自信あるのか。これで間違ってたら恥ずかしいぞ、お前」
レオ「大丈夫です。自信あります」
立ち上がって、黒板に向かうレオ。チョークですらすらと数式を書いていく。
教師A「…正解だ。」
クラスメートたちが「やるう」「さすがー」などとはやしたてる。
唯(え?え?何?竜崎君ってパリピなのに勉強もできるの?!朝が弱いって遊びまわってるからでしょ?いつ宿題なんて、やってんの?
昨日の、生徒会長とのことといい…竜崎君、謎が多すぎるよ…)
○放課後の昇降口
まな「唯、この後、お茶していかない?」
唯「うん、いく!」
ぱあっと笑顔になり、靴を履こうとする。
すると、後ろから来たレオとすれ違いになりそうになる。
唯「あ…」
唯(さっきの、数学のお礼、言わなきゃ…)
唯「竜崎君、あのさっきの数学の宿題」
(はっ、まさか朝みたいに抱きついてきたりしないよね?!)
レオ「お疲れ、委員長」
唯「う、うん」
さっと靴を履いて行ってしまう。
まな「はー、竜崎君、さすが恩着せがましくないわ。隣の永沢なんて消しゴム借りただけでジュースおごれって言うのにさあ」
唯「うん…」
唯(ただのクラスメートって設定にして、って言ったの私なのに…なんでつまんないって思っちゃうんだろ… わ、私もパリピ病に感染しかかってる?こわ!)
まな「唯―?行くよー」
○駅近のファミレス
まなはパフェ、唯はコーヒーとケーキのセットを食べている。
まな「ねー、唯。なんか、最近、ひとりでなんか呟いてること、多いよ。なんか悩み事でもあるの?」
唯「う、そ、そう?うーん、なんていうか…」
まな「パリピがどうとか…唯、真面目だもんね。パリピになってはしゃぎたいの?」
唯、ぶんぶんと頭を振る。
唯「違うの、そんなんじゃなくて…パリピみたいな人が高校にはいる、って従姉妹のサチ姉ちゃんから聞いてたから…どんな人かなって」
まな「あーねー、いるよね。うちのクラスにも派手そうな人たち。山崎とか岩谷とか。あと竜崎もぽくない?」
唯「!」
唯「そうなの、竜崎君って朝弱いらしくて…やっぱりパリピだからだと思うんだけど…でも、パリピの人っていつ勉強してんの?」
まな「あー、今日も宿題すらすら解いてたもんね。昼休みはサッカーしてたし。いつやってるんだろうね。あっ、見て」
まな、窓の外を指す。
まな「あれ、竜崎と…生徒会長じゃない?」
唯「え!あ!」
ファミレスから見える表通り。レオと生徒会長が楽しそうに歩いている。
唯(だから…どういう関係…つ、つきあってるの?!)
○早朝の公園
朝、はっ、はっと息を切らして公園をジョギングする唯。(容姿:小柄 髪型 ボブ ジャージを着てる)
唯(あー、やっぱ早朝ジョグは気持ちいーなー…
昨日はへこんでたけど…)
回想 ○ 昨日 新学期初日の教室で
生徒A「クラス委員かー吉田でいいんじゃね?」
生徒B「そうだよね。経験者がいいよね、やっぱし」
女子生徒A「吉田さーん。お願い、クラス委員やってえ」
女子生徒B「いいね。決まりだね」
唯「えっ、あの…あー…はーい…」
しぶしぶ受け入れる唯
唯(はあ…またクラス委員長になっちゃった…同中の人がいて嬉しかったけど、こういう展開になるとはね…まあ、部活してないから、いいけど…)
ふと、木陰のベンチに誰かが仰向けに寝ているのが目に入る。
唯(こんなところで寝るなんて…え?うちの高校の制服の男子?)
思わず、ベンチに近づく唯。
唯(どうしたんだろう、部活に行く前にちょっと休んでいるとか…でも本気で寝てるよね)
寝ている男子の顔のアップ。
唯(茶色い髪の毛サラサラ、睫毛の長い、綺麗な顔…口開けてるけど)
男子のあいた口に舞っていた木の葉が入りそうになる。
唯(あ!入っちゃう!)
唯、思わずその葉っぱが口に入るまえに手で受け止めようとする。勢い、よろけて男子に覆いかぶさる。
唯(や!近っ…!)
かあっと赤くなる唯。体勢を立て直そうとした瞬間、ばちっと男子の目が開く。
男子「…おはよう」
ふっと唯子の頭を抱え、キスをする。
唯(…!!)
唯、慌てて男子の胸を押して飛びのく。
唯「わ、私のファーストキス…!!」
男子「あれ…委員長。どうして…?」
男子、ゆっくりベンチから起き上がる。
唯「い、委員長って…同じクラス…?」
唯、顔が赤いまま言う。
レオ(男子)「おお。同じクラスの竜崎玲王。まだわからねえよな。昨日新学期始まったばっかりだし。でも、なんでここにいるんだ?」
唯子「私は早朝ジョギングで…竜崎君こそ…」
レオ「俺は、昨日帰りが遅くなってさ。ちょっと休んだら朝だった、みたいな?」
唯(帰りが遅い?!こういう人がパリピってやつ?!サチ姉ちゃんが言ってたやつだ!)
回想 ○唯の部屋 従姉妹で五歳年上のサチ姉ちゃんが遊びに来てる。サチ姉ちゃんの容姿:茶髪で髪の毛先カールしてマスカラで睫毛ばっちり、フルアイメイク。
サチ姉「唯、高校合格おめでとう。でもさー気をつけなよー。高校って中学と違っていろんな地区から来るじゃん。やっぱさーそん中にパリピとかいるわけよ。すごい遊んでて世界違うからさあ、唯、目をつけられないようにしなよねー」
唯(絶対そうだ。竜崎君は、危険なパリピ…!)
レオ「まだ五時半か。ウチ帰ってシャワー浴びれるな」
レオ、制服の埃をぱたぱたとはたいて
レオ「委員長朝型なのか?早起きだな」
レオ、唯の頭をぽんぽんする。
唯またかあっと赤くなって
唯(スキンシップ多い!パリピだから?)
歩き出すレオ。
唯(私も、帰ってお弁当作らなきゃ…うう…ファーストキス…)
動揺が消えないまま走りだして公園を出る唯子。
振り返ると、レオがいる。
唯(何、なんなの?つけられてる?やっぱパリピこわ~!)
泣きそうな顔をしているとレオと目が合う。
レオ、ぱっと真顔になって唯に駆け寄る。
レオ「あのな、つけてたんじゃなくて、俺のウチ、あの水色のマンション」
唯「へ?水色って…ウチもなんだけど」
レオ「あ、じゃあ同じマンションだな。俺、三日前にここに引っ越してきたんだよ。303号室」
唯、真っ青になる。
唯(うちは302…ってことは)
唯「お隣さん?!」
唯大声で叫ぶ。
----------
第2話
○302、303号室の前で
レオ「じゃ、お隣さんってことで、よろしく」
唯(嘘…ファーストキスの相手がお隣って頭ついていかない…)
○唯の家、キッチン・リビング 7 :30
唯、暗い表情のままサンドイッチを作る。制服にもう着替えてる。
唯の母「おはよー」
唯「おはよー。ゴハンできてるよ」
母「助かるわー。昨日の仕事終わらなくて寝たの三時だったから」
唯(お父さん亡くなってから、お母さん働きづめだからな。手伝ってあげないと)
唯「お疲れ様。ねえ、お隣って引っ越してきてたの、知ってた?」
母「ああ、そういえばドアのとこに段ボールたたんであったわね。三日くらい前」
唯「そうだったんだ…何かね、そこの子が同じクラスの男子っぽい…」
母「え!そうなの?じゃあちゃんとご挨拶しなきゃね!もらったオレンジあるから持って行きなさい!」
唯「え、でも早朝だし」
母「お子さんのいるご家庭は朝早いわよ。ピンポン押して出られなかったら、また出直したらいいわ」
○303号室の前
唯、気の進まないまま、オレンジの入った袋を持っていく。
暗い表情のままピンポンを押す。
が、何の反応もない。ドアの隙間が開いている。
唯(また竜崎君と会いたくないな…玄関先にオレンジ、置いておこう)
ドアを開けると、突き当りのソファにレオが寝ている。口を開けてガチ寝。しかも上半身が裸。肩にタオル、下はジャージ。
唯「え、もう8時近いのに、何の支度もしてないってやばいんじゃない?」
色々葛藤するが、思い切って玄関にあがり、レオの肩を叩く。
レオ「あれ…委員長…また…なんで」
唯「あの、玄関あいてて、そしたらガチで寝てるから、遅刻するって思って…」
レオ、ふわっと唯をハグする。
レオ「…サンキュ。助かった」
唯(キャー!!)
唯じたばたして、ハグから逃れようとする。
唯「ちかちか…近いっ!!」
やっとレオ、唯を解放する。レオ、きょとんとした表情。
レオ「感謝のハグ、な。あー、委員長、悪いけど、朝、俺のこと起こしてくれねえかな…俺、朝めっちゃ弱くて」
唯「どうして私が!」
レオ、にやっと笑って
レオ「俺、院長の声、結構好き」
唯(す、すすす、好きって…!!)
好きという言葉に反応して目がぐるぐるの唯。
唯(好きっていきなり…!ま、待て。落ち着け、私。告白されたわけじゃないんだから)
唯「私に頼むんじゃなくて、おうちの人に頼めばいいじゃない」
赤くなりながらも、冷静に言う。
レオ「俺、一人暮らしなんだ。実家はS市。この部屋、叔父貴が税金対策で買ったやつ。使ってないから住ませてもらってる」
唯「あ…そう。だ、だからって私が起こす理由にはならないでしょ。じゃ」
玄関に戻る唯。
靴をはいたところに、さっとレオがやって来る。
唯を玄関の壁に壁ドン。
いきなり顔を近づけられ、真っ赤になる唯。レオ、真顔でささやく。
レオ「どうしても…?」
唯、緊張感に耐え切れず、視線をずらすとレオの裸の胸。
唯「は、早く服着てっ!!」
体をかがめて、レオの腕から逃れ、ドアを開ける。もう少しで閉まるところで、唯、レオに振り返って言う。
唯「また寝ちゃダメだよっ…!」
微妙に上目遣いで、でも顔が赤い。レオ、ぐっとくる。
ドアが閉まる。残されたレオ、くすっと笑う。
○教室で 午前中の休み時間。
派手めな女子達が「竜崎君ってばー」などレオを囲んで騒いでる。机一列分空いた席から唯とまな(同中で前から仲がいい)がレオたちを見ている。
まな「すごいね、竜崎パワー。目立つ女子、ほとんど竜崎のトリコじゃん」
唯「見た目がいいだけじゃない?」
まな「うん?唯にしては否定的意見。珍しい。なんかあった?」
唯「ううん、別に…」
唯(言えない…まなちゃんにも言えない…キスされて壁ドンされたなんて学校でバレたら私、学校で居場所なくなる)
派手女子「じゃあさー、竜崎の好きな女子のタイプってどんな感じー?」
レオ「あー…好きな声とかなら、ある、かな」
レオ、若干、だるそうに言う。
派手女子「ええー、どんな声?」
レオ「そうだな、身近な例で言うと委員長」
唯の表情が「!」に変わって叫ぶ!
唯「竜崎君!先生が呼んでたよっ!」
ダッシュで唯、レオのところに走り、ぐいぐいレオの腕を引っ張り教室から連れ出す。
○校舎裏
唯、キョロキョロして人がいないか確認。
唯「ここなら大丈夫そう…」
レオ、クスッと笑って。
レオ「何だ。告白が始まるのか」
唯、レオをぎろっと睨む。
唯「違うでしょ!竜崎君が軽々しく、私のことを言おうとするからでしょ!」
レオ「委員長の声が好きってのは事実だから、よくね?」
唯「ダメ!ただでさえ委員長やらされて浮いてるのに、竜崎君の隣に住んでるとか、竜崎君に壁ドンされたとか、竜崎君にキ」
キスされた、と言ってしまいそうになり、慌ててやめる。顔が真っ赤。
唯「とととにかく!竜崎君と私はクラスメートってだけなの!他に接点なしの設定にして!じゃないと女子から総スカンだよ。毎日やっかまれて嫌がらせされて高校生活闇に転じるから!」
------------
第3話
キョトンとするレオ。
レオ「委員長と俺はクラスメートっていうだけの設定か」
唯「そう!そうして!」
レオ「いいよ」
唯(!意外とすんなりOKしてくれた!)
めっちゃ喜びの表情の唯。
レオ「その条件飲むから。朝、起こしてくれねえかなー」
唯、そうくるとは思わず、たじろぐ。
唯「ううっ、ず、ずるい…!」
レオ「ずるくないだろ。俺の自由の一部を奪っているわけだから、それくらい、いいだろ。じゃ、明日から7時に起こして。俺、鍵かけないから、勝手に入ってきていいぞ」
唯「だ、ダメ!不法侵入になっちゃうでしょ!」
レオ「俺が許可してるんだから、大丈夫だろ。ってか、必死で逃げようとしてるな」
唯「もちろん!」
レオ「じゃ、教室に戻って委員長がお隣さんって皆に」
唯「やらせていただきます!」
唯、必死の顔で叫ぶ。
唯(ううっ、どうしてこんなことにー!!)
○教室 授業中
唯(うう…竜崎君がお隣さんってだけでこっちは事件なのに…!さらに毎日、起こして、とか、ない!)
溜め息をつく唯
唯(いや…百歩譲って、朝起こしに行くのはいいとして…また起き抜けにキスされるんじゃないかって事…!)
唯、かあっと赤くなる。
唯(こないだみたいにさらっとやられたら!汚れていく、私の純潔が!乱されていく、あのパリピ人に!それだけは、阻止しないと!)
教師「じゃ、明日は小テストやるから、今日のとこ、復習しとけよー」
ざわざわしだす教室。教師が出ていき、休み時間になる。
まな「唯、昨日、ハルヤのキスシーン見たー?」
唯、ギョッとする。キスのことを考えていたので、タイムリーすぎた。
唯「ごめん、見てない。どんなシーンだったの?
まな「海辺で、ぎゅっと抱きしめてね、さりげなく顔を近づけて」
唯「さりげなく…慣れてると、さらっとできるもんなの?」
まな「そうじゃない?慣れてないと、キスしていい?とか、聞くよね」
唯(やっぱりパリピ人は違うのね!慣れてるからいきなりできるんだ!じゃ、私毎朝危険にさらされるってこと?!)
まな「唯、顔色悪いけど、大丈夫?」
唯「う、うん」
唯(まなちゃんに聞いてもらう?いや…もうちょっと様子みてからにしよう)
○放課後の教室
またレオの席の周りに女子の群れ
女子A「竜崎君、お茶して帰ろうよー!」
女子B「それより買い物行かない?竜崎君、センスいいから選んでー」
レオ「ん。わり。用事あるから」
机一列分離れた席から横目でレオたちを見る唯。
唯(ふーん、クラスの女子達とは遊ばないんだ…じゃあ仕事に疲れたOLのお姉さんとお酒飲むとか、他校の生徒とクラブに行くとか…あー、わかんない違う星の人すぎて想像追いつかない!)
まな「唯?なんか今日、よく竜崎の方見てない?」
唯「え?そんなことないよ!気のせい。気のせい。さ、帰ろ」
教室から出て行く唯の背中を見つめるレオ。ニヤッと笑う。
○翌日。 唯のうち、リビング。朝6:58
唯「えーと、洗濯ものは干したし、お弁当も作った。朝ごはん食べてお母さんの分もある、と…」
時計、7:00を指す
唯(ついに来た…!はあ、気が重いなあ…でも約束だし)
唯、うちから出てレオのうちへ。言われたとおり鍵はかかっておらず、玄関にすんなり入れる。誰もいないリビング。
唯「えっと…こういう場合は、竜崎君の部屋の入っていいの、かな」
おそるおそるリビング奥の部屋に向かう。
細めにドアを開けると、ベッドにうつ伏せに寝ているレオ。
唯そろそろと近づく。
唯「竜崎君、起きて…」
ちょっとためらうが、肩をポンポンと叩く。反応がない。
唯「竜崎君」
腰をかがめて、レオの頭に顔を近づけた瞬間、ガバっとレオに抱きつかれる。
唯(きゃー!)
唯、顔、真っ赤に。
腕をじたばたさせて、なんとかレオの腕から逃れ叫ぶ。
唯「竜崎君!私は抱き枕じゃないよ!」
レオ、パチッと目を覚ます。
レオ「あれ?委員長。これ、夢の続きだろ?」
唯「違います!リアルな朝!起こしてって言われて、起こしに来たの!」
レオ「あ」
レオ、ベッドに座りなおす。
レオ「すげえ。本当に来た」
驚いた顔のレオ。唯はまだ心臓バクバクで、顔が赤い。
唯「や、約束したから…」
レオ「真面目だな。そこがいいんだが」
ストレートな言葉に、さらに顔が赤くなる唯。
唯「じゃ、約束は果たしたから」
レオ「あ、昨日置いてあったオレンジ、うまかった。おかげで昼までもった」
唯「え?」
唯、真顔に戻って振り返る。
唯「ちょっと待って。朝ごはん、オレンジですませたの?!」
レオ「うん。だからうまかったって」
唯「ダメだよ!朝ごはんは、一日の要だよ!ちゃんと、食べないと!今日も用意してないの?!」
レオ「ああ。もらったオレンジ、まだあるし」
唯「竜崎君。起きて、顔洗って、制服に着替える。15分で、できる?」
レオ「あ、ああ」
唯「じゃ、スタート!15分後にね!」
びゅん!と唯、レオのうちから出て行く。取り残されたレオ、呆然とする。
レオ「…は?」
15分後。レオのうちのリビング。ダイニングテーブルに朝食が並ぶ。レオ、驚いた顔をしてそれを眺める。
唯「簡単なものしかないけど、オレンジだけよりいいでしょ」
レオ「これ、15分で作ったのか」
唯「サラダは作り置きがあったし、パンはトーストしただけだし、ハムエッグは4分でできるし」
レオ「すげ」
レオ、うやうやしく頭を下げ、手を合わせる。
レオ「いただきます」
唯(あ、あれ?意外と礼儀正しい?いやいやいやいただきますなんて、幼稚園児でもするから!)
レオ、黙々と平らげていく。
唯(食べ方もキレイ。ふ、ふーん…)
レオ「ごっそさん。うまかった」
レオ、頭を下げる。
唯「あ、あの…夢に、私が出てきたの?」
唯、顔を赤くしてよそ見をしながら。レオ、唯に手招きする。唯、レオに近づく。
レオ「秘密、だよ」
レオ、唯の頬に軽く、キス。ぱっと飛びのく、唯。顔を真っ赤にして。
唯「もうっ!パリピ人!」
ダッシュでレオのうちを去る。
○夕方。唯、学校帰りのスーパーで。買い物カゴをさげて品物を見てる。
唯「明日は何を作ろうかなー」
そう呟いて、はっとする。
唯「べ、別に竜崎君のためとかじゃないから!」
頬にキスされたのを思い出して、カアっとなる。
唯「…でも、きれいに食べてくれたし…朝ごはんくらい…」
肉をカゴに入れる。顔をあげると、同じ制服の女子が唯をにらんでくる。
女子「ねえ、あなた、レオの何?」
----------
第4話
○ スーパーで
制服女子「あなた、レオとどういう関係なの」
きつい目でにらまれる。
眼鏡をかけた秀才風。でもすごい美人。
唯「えっ、えっと…」
制服女子「私、見てたのよ。レオとあなた、昨日、校舎裏にいたでしょう」
唯(み、見られてた…!
どうしよ、何言ったっけ私…クラスメートっていう設定にしてとかなんとか…聞こえてたらやばい!)
制服女子「話しは聞こえなかったけど。二人でこそこそして。不愉快なんだけど」
唯(ふ、不愉快?そこまで言う?!でも聞こえてなかったならラッキー!)
唯「わ、私クラス委員長なんで、竜崎君に頼みごとをしてたんです」
制服女子「たのみごと?」
唯「そう…えっと竜崎君、クラスで人気あるから控えめな子たちにも声かけてね、って」
制服女子「…」
疑いの目つき。無言の圧力。
唯「新学期ってなかなかクラスに馴染めない子も多いから。竜崎君に間に入ってもらおうと思ったんです!」
制服女子「ふう…ん」
唯(な、なんとか乗り切った?!)
制服女子「そうだったの。確かにレオに声かけてもらったら嬉しいでしょうね。でも変にこそこそしないでね。レオは預かった身だから。じゃ」
にっこり笑って(笑うと美人度があがる)立ち去る。
唯、緊張がほどけてぐったり。
唯(な、なんなの…預かった身って何?こっちこそ竜崎君とどういう関係って聞きたいんだけど!
やっぱりパリピの世界ってわかんない!
でも…今の人、どこかで見たことあるような…)
○翌朝。レオの部屋。
唯「竜崎君、起きて!」
レオ「ん、んんっ…」
唯に抱きつきそうになるところを、唯は枕を抱かせてガードする。
レオ「な…んだよ」
唯「同じパターンは通用しないんだから!はいっ、起きて着替えて洗顔!」
レオ「ちぇっ、委員長抱き心地いいのに…」
唯、かあっと赤くなる。
唯「わ、私は抱き枕じゃないって言ってるでしょ!」
レオ、ふっと笑って。
レオ「今日も朝ごはん、あったりする?」
嬉しそうにきいてくるので、唯もちょっと嬉しくなる。それを隠そうとそっぽを向いたまま言う。
唯「…フレンチトースト」
レオ、唯の顔のすぐ近くまで顔をもってきて、ささやく。
レオ「…大好物」
唯「だ、だから、近いんだってば!」
○ レオのうちのリビング
レオ制服に着替えてフレンチトーストを食べる。
レオ「…ん。うま」
唯(やったーっ!って私、喜びすぎ!)
唯「そ、そう。よかった」
レオ「っていうか、委員長はもう食ったのか?」
唯「あ、私お弁当作るついでに朝ゴハンも作って食べるから」
レオ「弁当、自分で作ってんだ」
唯「うん。うちのお母さん、仕事で忙しいから、私ができるだけ家事やってあげてるの。朝の内にいろいろやっておくと、学校から帰ってゆっくりできるから」
レオ「ふーん…だからこの間もすっげえ早い時間に走ってたんだ」
唯「うん。朝の内に、早朝ジョグ、帰ってきてからお弁当と朝ごはん作り。それと夕飯の下ごしらえ。それに洗濯ものも干して軽く掃除もしてるんだ」
レオ「すげえ…スーパー女子高生じゃん」
唯「そ、そんなことないよ。家事の一つ一つは短い時間でできるし。中学の時からやってるから慣れちゃった」
レオ、ぴたっと食べるのを止める。
レオ「そんなに忙しいのに…悪かったな。俺の世話までさせて」
唯「え」
素直に謝られて、ドキッとする唯。
唯「いや、あの、えーと。つ、ついでだから」
唯の中のもう一人の自分が言う。
『ついでじゃないじゃん!昨日から今日の朝ゴハン何作ろうかなってあれこれ考えて大変だったじゃん!』
唯、もう一人の自分を押しのけて。
唯「まあ、そんなに凝ったゴハンでもないし」
レオ「そう?フレンチトーストって手間かけないと美味くないだろ。これ、充分凝ってるよな」
唯「え…竜崎君、お料理の知識があるの?」
レオ「うん?いや…まあ、いいや。言いたいのはありがとうってこと」
唯(えー!何、なんでこんなに今日は素直なの?調子くるっちゃう!)
唯慌てて、別の話題を考える。
唯「そ、そうだ。昨日、眼鏡かけた美人の人に竜崎君とどういう関係なのか、きかれたけど」
レオ「眼鏡…?あ、流衣のことか」
唯「流衣さん?って、竜崎君と」
唯(はっ、どういう関係なの、って聞こうとしてる!何食いついてるの、私!)
レオ「なんだ、委員長、気づかなかったのか。入学式で見ただろ」
唯「え?」
レオ「流衣だよ。生徒会長だよ」
唯「あ…あー!どうりで見たことある、と思った!」
レオ「まあ…流衣のことは、あんまり気にしないでくれ」
そう言って横を向き、顔を赤らめるレオ。
唯(えー!なに、何!赤くなってる!どういう関係なのー!気になるー!
それに、竜崎君ってパリピの癖に、生徒会長みたいな堅いタイプとつきあいがあるってどういうこと?な、なんか…訳ありっぽい…!)
思考がぐるぐるしてきた唯に、椅子から立って近づくレオ。
唯の手をとる。
レオ「家事やりすぎて荒れてんじゃね?…大事にしろよ」
ちゅっ、と唯の指にキスをする。
唯、かあっと赤くなる。
唯(いろいろ、気になるけどきけないよー!)
------------
第5話
○昼休みの教室
女子A「竜崎君、一緒にお弁当食べようよ」
レオ「あ、俺、学食派だから」
男子A「竜崎、学食か、俺もいこ。んで食い終わったらサッカーしようぜ」
男子B「おっ、いいな。それ。俺もいこ」
レオがわいわいクラスメートに囲まれている。それを教室のすみでお弁当をひろげているまなと唯が見ている。
まな「ははは、竜崎、女子だけじゃなくて、男子にも人気あるんだ」
唯「ほんとだね」
唯(パリピってやっぱ人気あるものなのかな…一人じゃパーティできないもんね)
生徒A「委員長、このプリントってどこ提出?」
唯「あ、職員室の林先生の机に」
生徒B「委員長、化学準備室ってどこ?」
唯「東棟の突き当たりだよ」
生徒C「部活やりたいんだけど、入部届けってどうすんの」
唯「明日、部活紹介の集会があるから、その時にわかるよ」
まな、はあ、と溜め息をつく。
まな「やっぱ唯、委員長向いてるわ。皆に頼りにされてるじゃん」
唯「うーん…先生が言ったこととかをちゃんとメモしてるだけなんだけどね…」
まな「皆、結構、先生の話とか聞いてないもんね。よっ、このしっかり者!」
唯「…まなちゃん、私に何か頼みごとがあるでしょ」
まな、てへっと笑う。
まな「実はそうなの。今日、当たるかもしれないから宿題、教えて!」
唯「そんなこったろーと思ったよ。はい、昨日の宿題、やってあるよ」
唯、まなにノートを渡す。
○授業中
教師A「おー、じゃ、昨日の宿題の答え合わせから。今日は、ランダムにいくぞ。じゃあ、吉田。練習問題のBを黒板で解いてみろ」
唯「は、はい」
唯、ノートをめくる。
唯(あっ、あれ?練習問題のBだけ、とばしてる!やってない!)
唯「あ、あの…」
教師A「なんだ、やってないのか。委員長なんだから皆の模範にならなきゃダメじゃないか」
唯(宿題やったのに…ここの問題だけとばしてる、なんてドジ!)
かあっと赤くなる。
レオ「せんせーい」
レオがさっと手をあげる。唯、びっくりしてレオを見る。
レオ「俺、この問題解きたい。ダメっすか」
唯(え…?)
教師A「なんだ、竜崎自信あるのか。これで間違ってたら恥ずかしいぞ、お前」
レオ「大丈夫です。自信あります」
立ち上がって、黒板に向かうレオ。チョークですらすらと数式を書いていく。
教師A「…正解だ。」
クラスメートたちが「やるう」「さすがー」などとはやしたてる。
唯(え?え?何?竜崎君ってパリピなのに勉強もできるの?!朝が弱いって遊びまわってるからでしょ?いつ宿題なんて、やってんの?
昨日の、生徒会長とのことといい…竜崎君、謎が多すぎるよ…)
○放課後の昇降口
まな「唯、この後、お茶していかない?」
唯「うん、いく!」
ぱあっと笑顔になり、靴を履こうとする。
すると、後ろから来たレオとすれ違いになりそうになる。
唯「あ…」
唯(さっきの、数学のお礼、言わなきゃ…)
唯「竜崎君、あのさっきの数学の宿題」
(はっ、まさか朝みたいに抱きついてきたりしないよね?!)
レオ「お疲れ、委員長」
唯「う、うん」
さっと靴を履いて行ってしまう。
まな「はー、竜崎君、さすが恩着せがましくないわ。隣の永沢なんて消しゴム借りただけでジュースおごれって言うのにさあ」
唯「うん…」
唯(ただのクラスメートって設定にして、って言ったの私なのに…なんでつまんないって思っちゃうんだろ… わ、私もパリピ病に感染しかかってる?こわ!)
まな「唯―?行くよー」
○駅近のファミレス
まなはパフェ、唯はコーヒーとケーキのセットを食べている。
まな「ねー、唯。なんか、最近、ひとりでなんか呟いてること、多いよ。なんか悩み事でもあるの?」
唯「う、そ、そう?うーん、なんていうか…」
まな「パリピがどうとか…唯、真面目だもんね。パリピになってはしゃぎたいの?」
唯、ぶんぶんと頭を振る。
唯「違うの、そんなんじゃなくて…パリピみたいな人が高校にはいる、って従姉妹のサチ姉ちゃんから聞いてたから…どんな人かなって」
まな「あーねー、いるよね。うちのクラスにも派手そうな人たち。山崎とか岩谷とか。あと竜崎もぽくない?」
唯「!」
唯「そうなの、竜崎君って朝弱いらしくて…やっぱりパリピだからだと思うんだけど…でも、パリピの人っていつ勉強してんの?」
まな「あー、今日も宿題すらすら解いてたもんね。昼休みはサッカーしてたし。いつやってるんだろうね。あっ、見て」
まな、窓の外を指す。
まな「あれ、竜崎と…生徒会長じゃない?」
唯「え!あ!」
ファミレスから見える表通り。レオと生徒会長が楽しそうに歩いている。
唯(だから…どういう関係…つ、つきあってるの?!)
< 1 / 9 >