毎朝、甘い

第9話

○放課後。商店街の近くにある図書館

唯、本棚の高いところに手を伸ばして本をとる。
タイトルは「美味しいコーヒーの本」
手に取ってぱらぱらめくる。
唯(豆の選び方…焙煎の仕方…そうか、こういう細かいことをやれるコーヒーのスペシャリストがバリスタなんだ)
 ふんふん、とページを読み込む。
レオ「委員長」
唯「!竜崎君!なんでここっ…!」
レオ「それは俺の台詞。俺、毎日ここ来てるよ。バイト先に近いから。ここで宿題とか予習とかを18時前までやってる」
唯「そうだったんだ!竜崎君、いつ勉強するんだろう、って思ってた。夕方、みっちりやってたんだね」
レオ「おう。せっかく学校行かせてもらってんだから、ちゃんとやんないとな」
唯(行かせてもらってる…?)
レオ「じゃ」
唯「あ、い、一緒に勉強、してもいいっ…?」
 唯、赤くなりながら言う。
レオ「どうぞ」
 少し微笑んで、嬉しそうなレオ。

○図書館の休憩室  レオと唯の他、誰もいない

唯「静かだし、図書館って確かに勉強はかどるね」
レオ「そうだろ。それにしても、なんで商店街の真ん中にあるんだろうな。変な組み合わせ」
唯「小さい頃からあったけど、私もそう思ってた」
レオ「この図書館の向かいなんかガールズ・バーだぞ。治安とかどうなんだろうなあ」
唯「ガ…竜崎君、まさかそういうとこにも」
レオ、はーっと息をついて
レオ「どうしてそうなるんだよ。行くわけねえだろ」
唯「そうか、よかった」
レオ「何で委員長が安心すんの」
唯「えっ、えっとあの」
レオ「俺、まだパリピとか、思われてんの?」
唯「そ、そんなことないよ!バイトしてて偉いなって思ってる。…生活費、自分で稼がなくちゃいけないの?」
レオ「いや、仕送りもしてもらってる。ただ、バイト先に近いから、うちの高校選んだってのがあるし」
唯「じゃ、バイトは最近始めたんじゃないの?」
レオ「中三の冬休みからかな。
俺の実家、S市にあって。ちょっと距離があるから、バイトには土日だけとか入らせてもらってた」
唯「受験勉強と両立させてたんだね、すごいね」
レオ「ああ…そこも親ともめたな。俺の成績だともっといい高校に行ける、って言われたんだけど、頼み込んで今の学校にしてもらった」
唯「それも、カフェのバイトのため…?」
レオ、こくりと頷く。
唯「そんなに、好きなんだ、カフェの仕事」
レオ「うん。なんか、極めたいんだよな」
唯(そのカフェの娘が、生徒会長なんだよね…なんか、関係あるの、かな…)
レオ「委員長は、したいこととか、ないのか」
唯「うーん、家事と勉強してたら一日が終わっちゃって。あ、でも時々、猫の動画見て休憩してる。はまってるユーチューブがあって。見る?」
レオ「うん。見たい」
唯「ちょっと待ってね。スマホどこにやったかな」
 カバンの中を探して、中から教科書とかを出す。その時に、さっきのコーヒーの本もちらっと見える。
レオが、はっとした顔をする。
レオ「どうして、コーヒーの本?興味あんの?」
唯「えっと、あの…実は…生徒会長に、竜崎君が、バリスタを目指してるって聞いて…私、バリスタってよく知らなかったから、調べて…」
レオ、「流衣が言ったのか」
唯「そ、そう」
レオ「あいつっ…くそ。やられた」
唯「生徒会長が竜崎君のバイト先のカフェの娘さんなんだよね。時々、一緒にいたのってそのせいなの?」
唯(わあ…きいちゃった!)
レオ「ああ…流衣も、よく店手伝ってるから。こないだ委員長と一緒にいた日曜日、あんときも、流衣から人手が足りないからって呼び出されてさ」
唯「そうだったの」
唯(ほっ…二人でデートとか、そういう流れじゃないんだ)
レオ「流衣のやつ、ひとこと余計なんだよ」
 あからさまにむくれた顔をする、レオ。
 なぜむかついているかわからない唯。
唯「でも、すごいね。夢があって。そこにむかって努力していけるもんね。ううん、夢見てたって実行できない人の方が多いのに、竜崎君は、もう行動してるんだもんね。すごいよ。尊敬する」
レオ、唯の目を覗き込む。
レオ「ほんとに、そう思う、か…?」
唯「ほんとだよ。こんなことで嘘つきたくない」
レオ「…俺的には。こういう流れで知られたくなかったんだよ」
唯「え?」
レオ「だから。流衣の奴がばらしたんだろ。そうじゃなくて」
 レオ、唯とは反対の方向を見ながら、言う。
レオ「夢とかやりたいことって…好きな奴には、自分で言いたい、だろ」
唯(え…?)
唯「竜崎君…?」
レオ「だから。俺が好きなのは、委員長なんだよ。何度も言わせんなよ」
唯(!)
唯「ええっ」

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