毎朝、甘い

第10話

○図書館の休憩室 

レオ『俺が好きなのは、委員長なんだよ』
唯「え…ええっ」
 思いがけない展開に、唯、目驚く。
レオ「…なんか、暑いな、ここ。公園に行くか」
レオ、ごまかすように言うが、耳が赤い。
唯、それを見てさらに告白の現実味がわいてかあっとなる。
唯(竜崎君が私を…好きって…嘘…信じられない…ど、動悸が止まんない~!)

○図書館から出て 図書館の隣の公園のベンチに座る唯とレオ。夕方17:30

レオ「ほら」
 レオが自販機から買った缶コーヒーをくれる。レオも自分のを飲む。
唯「ありがと…」
唯(す、好きだって言われて…意識しちゃって何話せばいいの~?!)
 唯、とりあえずコーヒーを飲んではっと思いつく。
唯「あの…竜崎君は、なんでバリスタを選んだの。カフェならお料理作ったりスイーツ作ったりとか他にもお仕事あるでしょ」
レオ「俺ってさ、愛人の子供なんだよね」
唯「え」
レオ「母親が不倫してできた子供が俺。別によくある話だし、母親には大事に育てられたし、それはいいんだけど。あの男…俺の父親のことな。あの男、でかい会社の社長なんだけど。自分の息子が跡を継がないって言うから俺に継げって言い出して。進学校に行ってあの男の決めた大学に行かされそうになって…いきなりだぜ。俺、小学校の時に一回しかあの男に会ったことないしさ。訳わかんなくてキレて、叔父貴んとこに行ってしばらく実家に帰らなかったんだ」
唯、黙って聞く。
レオ「叔父貴の部屋…今、俺が住んでる部屋な。あそこでうだうだしてたら、叔父貴が気分転換にコーヒーでも飲みに行こうって。それで行ったのがカフェ『マリア』。オーナーが淹れてくれたコーヒー飲んだら…なんか、ぶわっと意識が飛んで。イライラしてたのがすっとなくなって、急に…なんか、スゲーこんなの飲んだことないって感動して」
唯、頷く。
レオ「次の日には実家に帰ったけど、そのコーヒーのことが頭から離れなくて。オーナーに頼みこんで、土日バイトに入らせてもらって。仕事の合間にオーナーと話してた時にバリスタって仕事があるって知ったんだ」
唯「そうだったの」
レオ「うん。俺、何になりたいとかなかったんだけど、バリスタになりたいってはっきり思ったんだよな…ってかワリ。俺ばっかしゃべってんな」
唯「ううん。竜崎君、これじゃなきゃだめ、ってことにもう出会っちゃったんだね。すごいね」
レオ「いや…まだ全然、半人前だし。気持ちばっか先走ってさ…」
唯「そんなことないよ。日曜日淹れてくれたコーヒー、すごく美味しかったもん。ちゃんと身になってるよ」
レオ「そう…かな」
 レオ、くすぐったそうに照れる。
唯「うん。竜崎君のコーヒー、また飲みたいよ」
レオ「おう。『マリア』に飲みにこいよ」
唯の頭の中に、ぱっと生徒会長のことが浮かぶ。
唯「あの、『マリア』に行ったら、生徒会長がいるのかな」
レオ「ああ、たまに。なんで?」
唯「えっと…竜崎君と、生徒会長よく一緒にいるから…なんかあるのかって思ってた」
レオ「は?なんかって…あ」
 レオ、コーヒーをぐっと飲み、髪の毛かきあげる。
レオ「俺。あっちもこっちもみたいなタイプじゃねえから」
 顔がほんのり、赤いレオ。
唯の頭の中でレオの『何度も言わせんなよ』が響く。
唯「わ、わかった…」
 唯の頬もほんのり、赤くなる。

○カフェ『マリア』の手前
レオ「マジ、送んなくていいのか」
唯「うん。明るいから大丈夫だよ。竜崎君、お仕事頑張ってね」
レオ、ちょっと黙る。
唯「?竜崎君?」
レオ「なんかさ、ずっと呼び名ってこのままかよ」
唯「え?」
レオ「俺のことレオって呼んでほしい。俺も…呼ぶから」
唯、頭がついていかず、ぽかんとする。
レオ「唯、気をつけて帰れよ」
唯、ぱあっと赤くなる。
唯「りゅ…レオ、君…」
 呼びなれてないので恥ずかしさで真っ赤に。
レオ「おう」
レオ、にっと嬉しそうに笑う。
レオ「俺…返事もらってないけど、急がねえから」
唯(そうだった!告白されたのに、返事してない!)
レオ「…じゃ」
 唯に背を向けようとする。
唯「え…あ…」 
 話したいことはいっぱいあるのに言葉にならない。
唯「レオ、君っ…!」
レオ、振り返る。
唯「あのね、私、レオ君のこと、もっと知りたいって思ってるから…!」
レオ、一瞬きょとんとして、にやっと笑う。
レオ「明日の朝、楽しみにしてる」
 ふわっと一瞬、唯をハグする。
 身体を離して行くレオ。見送る唯。
唯(もう、反則なんだからっ…!)

○カフェ『マリア』の窓際
エプロン姿の生徒会長が、唯とレオがハグするのを見る。
流衣「…レオ…!」

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