毎朝、甘い
第15話
○唯の部屋 夜の22時半頃
唯のスマホが鳴る。レオから。ぱっと出る。
レオ「唯?」
唯「うん。お帰り。お疲れ様」
レオ「今、バイトから帰ってきて、ポスト見たら通知来てた」
唯、ごくっと息を飲む。
レオ「合格だったよ」
唯「やったね!すごい!レオ君!」
レオ「うん。これ受かったからってバリスタになれるわけじゃないけど…やっぱし嬉しいな」
唯「うん…がんばってたもん、当然だよ」
レオ「学力テスト、明日、成績わかるんだったな」
唯「そうなの。…考えると、胃が痛いよ」
レオ「大丈夫だろ。唯だって頑張ってた」
唯「そう思いたいけど…やっぱ不安」
レオ「唯、目をつぶって」
唯「え?う、うん」
スマホ越しにチュッと音がする。
レオ「今、キスを送ったから」
唯「…!」
レオ「なんで黙るんだよ」
唯「は、恥ずかしいよ」
レオ「何言ってんだ。お母さんに認めてもらったら、俺、唯にガンガンちゅーするからな」
唯「ひ、人がいるとこじゃやめてっ」
レオ「じゃ、いないならいいんだ」
唯「もうっ…!」
赤くなりながら言う、唯。
○教室 休み時間
まな「唯!学力テストの結果、どうだった?」
唯「…数学が、88点」
真っ青な唯
まな「えっ、じゃあダメじゃん!唯、福岡行っちゃうの?!」
唯「…」どうしよう、という顔。
○放課後 図書館横の公園のベンチ
レオと唯、並んで座ってる。
レオ「88点か…」
唯「ごめん…」
他になんと言っていいかわからない唯。
レオ、唯を抱きしめる。
レオ「心配すんな。スマホでオンライン通話もできるし。…こんな風に抱けねえけど。俺、バイトして金貯めて福岡に行くから」
唯「うん。私もバイトして、こっちに来れるよう頑張る。レオ君のコーヒー飲みたいもん」
レオ「唯…」
○唯のうち リビング 22時半頃
ソファに座っている唯母 仕事から帰ってきたところ
唯母「で、結果が出たのね。見せなさい」
唯、成績表を渡す。
唯母「へえ、数学、88点」
唯「…お母さん。約束の90点には届かなかったけど、私、ここに残る。レオ君と、離れたくない」
唯母「何言ってんの。こんな条件もクリアできないで、こっちに残せるわけ、ないでしょ。あんたは約束どおり、私と福岡に来るの」
唯「バイトだってするから!苦手な数学、これからも勉強する」
唯母「そんなこと言って、二人でいる間に、時間なんてどんどん過ぎてっちゃうのよ。バイトして勉強もして、家事もして、竜崎君とも過ごす。両立どころか四つもやれるわけ、ないでしょ」
唯「…お母さんと、私、違うから」
唯母「何」
唯「お母さんは猪突猛進型で、一個のことしかできないタイプじゃない。私、これまでどんだけお母さんの世話やいてきたと思ってんの。私、マルチタスク、超得意だよ。確かに数学の点数は90点に届かなかったけど、レオ君と一緒にいるからって成績落ちたりしない。お母さん、私を舐めてる」
唯母、きょとん、とする。
唯「私、今回だけは譲れない。お母さんの言う事、きかない。だって…レオ君には、私が必要で。私にも、レオ君は必要なの」
唯母、ふっと笑う。
唯母「…驚いた。あんたが反抗することなんて、あるのね」
唯「子供扱いしないで、私は」
唯母「唯、竜崎君、もう帰ってる?帰ってるなら、ここに呼んで」
○唯のうち ダイニングテーブル 奥に唯母、向かいにレオと唯
唯母「まずは、竜崎君、資格試験合格、おめでとう」
レオ「ありがとうございます…」
何が始まるのかわからず、当惑気味に言う。
唯母「それから唯。いつも50点台だったのに、よく頑張った。88点ね。やればできるじゃないの。これからもこの調子でね」
唯「お母さん…?」
唯母「はい。私が福岡に行くに当たって、二人にはハッパかけさせてもらいました。どこまで頑張れるかな、って充分、見せてもらったわ」
唯、レオ、ぽかんとする。
唯母「部屋って空き家にしておくと痛むのよね。この部屋は、お父さんの生命保険で買った持ち家だし、売ったりする気はさらさらないわけ。だから、唯、私が単身赴任で福岡に行っている間は、しっかりこの部屋の管理、頼むわよ。私だって一年で帰ってくるし」
レオ「単身赴任」
唯「…一年?じゃ、じゃあ私、福岡に行かなくても、いいの?」
唯母「そう言ってるじゃない。唯が私に歯向かうくらい本気なんでしょ。レオ君、ちゃんと自制しなさいよ。できちゃった婚なんて私、許さないからね」
レオ「はい!ありがとうございます!」
○翌朝。レオの部屋。
唯とレオ、見つめ合う
レオ「…認められたな」
唯「うん。認められたね」
レオ「唯が、遠くに行かなくてよかった」
唯「スマホがあるから大丈夫じゃなかったの!」
レオ「あんなの強がりに決まってる。…もう、離さないからな」
唯「うん」
二人、キスを交わす。
唯(こんな風に甘い朝は、これからも、続きそうです)
《了》