婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 ニッコリと笑みを浮かべて全裸になってくれと丁重にお願いする。そして立ち会いのため男性治癒士がカーテンを引き始めると、ヘルキス子爵は激昂して立ち上がった。

「わしがサインすればそれで終わりであろう! さっさと書類を渡せ!」
「いえ、私のミスを防ぐためにも、ここはお譲りできません。さあ、お願いいたします」

 いくら貴族で世話をされることに慣れていても、カーテンで仕切られただけの空間で全裸になることには抵抗があるらしい。

「わかった! もういい! これで失礼する!」

 そう言ってヘルキス子爵は治癒室から逃げるように去っていった。

「ラティシアさん、大丈夫ですか? 災難でしたね」
「ユーリ、ありがとう。大丈夫よ。みんなも騒がせてごめんなさい」
「いやー、どう考えてもいちゃもんつけてるだけなのはわかってますから! そもそもラティシアさんは専属治癒士になるほど優秀なのに、治療残しがあるなんて誰も思ってませんよ」
「そんな風に信じてくれるだけで嬉しいわ」

 エリアス室長へ視線を向けると「グッジョブ」と言って、親指を立てていた。

 その後も私の治療に対してのクレームが相次ぎ、エリアス室長に迷惑をかけたくなくて治癒室では積極的に治癒しなくなった。



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