婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
「最後に前国王について。僕の最愛を身勝手な理由で排除しようとし、臣下を巻き込み治世を乱したことでヒューデント王国に大きな混乱を招いた。いくら国王であったとしても、これには内乱罪が適用される。よって隔離塔へ生涯幽閉とし、他者との接触を一切禁ずる。孤独に蝕まれながら、自らの罪を悔い改めよ」

 隔離塔はフィル様がずっと閉じ込められていた場所だ。
 そこで誰も訪れることがなく、たったひとりで過ごすのは想像を絶する孤独との戦いだろう。

 でもこれで、フィル様の心が少しでも救われたのだろうか。『両親の愛を知らない』と言った時の、闇を抱えた寂しそうな瞳が脳裏をよぎる。私はそれだけが気がかりで仕方ない。

 そんなしんみりした気持ちでいたが、フィル様が満面の笑みを浮かべて私のもとへやってきた。

「ラティ、お待たせ。じゃあ、この婚姻宣誓書にサインしてくれる?」

 そう言って、いつの間に用意していたのか胸元から出した書類を広げた。【婚姻宣誓書】と書かれた厚手の紙には、フィル様の伸びやかなサインがすでに書き記されている。

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