婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 そう言われたら確かにそうなのだが、なにせ先ほどの流れに逆らえなくて妻になったばかりだ。決して嫌ではないけれど、突然のことで覚悟がまったくできていない。

 なんとかフィル様の気を逸らそうと、疑問をぶつけた。

「そうですけど……どうしてフィル様はサイン済みの婚姻宣誓書を持っていたのですか?」
「ああ、あれはね、タイミングを見てラティのサインをもらおうと思っていたからだよ」
「タイミング?」
「うん、一日も早く僕だけのラティにしたかった」

 甘く情熱的に、もう逃さないと言わんばかりのフィル様の獰猛な視線に囚われる。

 愛してる人からこんな風に求められて、それでも拒絶できるほど私の意思は固くない。キスより先のことは妃教育で学んでいる。

 明日までふたりとも予定がないから。
 もう正真正銘フィル様の妻になったから。
 身も心も捧げるのが王族に嫁ぐ者の義務だから。

 そんな言い訳じみた思考が頭の中を駆け巡る。結局のところ、フィル様に求められて断ることなんてできないのだ。

 だってこのまま身を委ねようとしている一番の理由は、フィル様に求められて嬉しいから。

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