婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 フィルレス様で見慣れていた俺は、これが毒物症状だとすぐに気が付いた。この通路はこの時間、ほとんど人通りがない。舌打ちして真っ先に向かったのは治癒室だ。

『エリアス室長はいるか!? 』
『はい、私ですが……なにか?』
『ラティシア様がお倒れになった。至急診てほしい』

 こうしてラティシア様を寝室へ運び、エリアス室長へ診察を頼んだ。それから急いで報告したが、俺の言葉を聞いたフィルレス様は執務室から飛び出していった。

 政務を放り出して、この後の面会もすべてキャンセルして、フィルレス様はラティシア様のもとへ駆けつけた。フィルレス様がどれほどラティシア様を愛しているかわかっていたから、本当に胸が切り裂かれるような思いだった。

 その日の夜遅く、フィルレス様は一度執務室へ戻ってきた。

『アイザック。詳しく話せ』

 抑揚のない声に、ゾクッと寒気が走る。ここまで感情をなくしたフィルレス様は初めてだった。濁った闇のような瞳が、悲痛な叫びをあげている。

 俺はラティシア様を見つけた状況を詳しく話した。フィルレス様は執務机で両手を組み額に当てたまま、静かに話を聞いている。

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