婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 そうして確実に証拠を集め、国議の場ですべての決着をつけてフィルレス様が国王になった。

 戴冠式を結婚式まで後一カ月というところまで迫った今、その準備に忙殺されている。そのせいで執務室は殺伐とした空気が漂っていた。

「アイザック。次の案件」
「こちらです」
「これは環境部門長の判断で裁決していい。次」
「かしこまりました。ではこちらを」
「……戴冠式の衣装合わせ? 必要ない」
「フィルレス様。すでに何度も延期され、ここで合わせませんと衣装が間に合いません。諸外国へのお披露目の場ですから、適当に済ませることもできませんので」
「これがなければ、ラティと夕食の時間を合わせられるだろう。いい加減、ラティが足りないんだよ」

 フィルレス様の気持ちはわからなくもない。おふたりが正式に夫婦となってから、毎日毎日砂糖みたいな甘ったるい空気をまき散らして、散々惚気を聞かされていた。

 それくらい仲睦まじく過ごされていたし、フィルレス様がラティシア様を溺愛しているのは国中どころかアトランカ帝国にまで知れ渡っている。

「では夕食後に衣装合わせも兼ねてラティシア様へ披露してはいかがですか?」

< 218 / 237 >

この作品をシェア

pagetop