婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 それから三カ月ほど経った頃だ。どうしても上級魔法がうまくできなくて、日が暮れても魔法練習場に残っていた。

「アルテミオ……?」

 名前を呼ばれて振り返ると、自分と同じ黒髪で青い瞳の少年が立っている。少し年上のようで、どことなく見覚えのあるような顔立ちに、これが“兄”なんだと気が付いた。

「……気安く名前を呼ぶな!」

 あいつが元凶なんだ! あいつさえいなければ、私はみんなに……父上と母上に愛されていたんだ!

 そんな気持ちが渦巻いて、私はその場を足早に去った。

 次の日は予定を変えて早朝に剣の練習をして、部屋に戻る途中でまた兄を見かけた。図書室の窓から見える兄は、なにかを熱心に読んでいる。その左横には四冊の本が積まれていた。

 ……あいつもこんな時間から勉強してるんだ。昨日だって魔法練習場に遅い時間に来たのに。

 それから兄を見かけるたびに様子を見ていたが、私と同じように朝から晩まで勉強しているようだった。

 本物なのにあんなに勉強するのか? だって、もう全部自分のものになったのに……?

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