婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 それはつまり、私はまた婚約を破棄されるということなのだろうか。国王命令だとしたら、フィル様も私も逆らえない。やっと手に入れた幸せは、また私の手のひらからこぼれ落ちていくのかと考えたら、目の前が真っ暗になった。

 私の脳裏に、今朝別れたばかりのフィル様の笑顔が浮かぶ。

 そうだフィル様はあの時『では、また後でね。ラティ』と言っていた。今までもずっと誠実に真摯に向き合ってくれたフィル様の言葉を、私は信じる。
 誰にどんなことを言われても、私の中ではフィル様の言葉こそが真実なのだ。

「失礼ですが、ブリジット様の言葉には従えません。婚約者であるフィルレス殿下から直接言われるまでは、王城から出ていくこともありません」
「そう、ご理解いただけなくて残念だわ。ラティシア様が侯爵令嬢のわたしに逆らうなんて無謀だと思いますけれど」
「恐れ入りますが、爵位を持ち出されるならカールセン伯爵家の当主である私に、侯爵令嬢なだけのブリジット様が命令できるとお思いですか?」
「…………」

 ブリジット様は優雅な微笑みを浮かべていたけれど、ピクリと頬を引きつらせた。

 爵位だけで見れば、確かに伯爵より侯爵の方が立場が上だ。だけどそれは同じ当主として比べた場合の話だ。王族を除いて貴族の令嬢や令息より、爵位は下でも家名を背負う当主の方が立場は強い。

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