婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
「アルテミオ。今日は初日だし一緒に行ってあげなさい」
「はい、母上」

 ものすごくしかめ面のアルテミオ殿下と、フィル様の執務室へ向けて歩き始めることになった。

 そんなに遠くないはずの距離だけど、重苦しい雰囲気に時間が経つのが遅い。私はこらえきれず前を歩くアルテミオ殿下へ声をかける。

「アルテミオ殿下、このように付き添っていただきありがとうございます。少しでも早くお役に立てるよう励みます」

 すると、ピタッと足を止めたアルテミオ殿下が振り返り私を睨みつけた。

「役に立つ……お前が? はっ、馬鹿なことを言うな。どうやって兄上を誑(たぶら)かしたのか知らんが、私はお前が婚約者だと認めていない」
「……そうですか。それでは認めてもらえるよう努力いたします」
「そんな努力は無駄だ。さっさと本性を表せ」

 それだけ言うと、また前を向いて大股で歩き始める。

 なんだかとても嫌われているのはわかったけど、もしかしてフィル様が王妃様たちに合わせてくれなかったのはこれが理由だったのかもしれない。いやでもそれならそれで、認めてもらうように頑張るしかないけれど。

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