婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 今夜の散歩の時に話をしようと思ったところで、フィル様の執務室へ到着した。

「兄上、失礼いたします。ラティシア嬢をお連れしました」
「ラティ! わざわざ来てくれたの? お茶でも飲んでいく?」

 フィル様はキラキラと輝くような笑みを浮かべて、勢いよく立ち上がり私のそばにやってきた。フィル様の笑顔にホッとしつつ執務室へ入ると、聞いたことのある甲高い声が耳に入った。

「あら、アルテミオ様! お久しぶりですわ、お元気そうですわね」
「……ブリジット嬢か。認定試験の件で来ていたのか?」
「ええ、フィルレス様としっかりと打ち合わせするため、いつもこの時間はお邪魔しておりますの」

 ブリジット様の言葉に私の胸にモヤモヤとした黒い感情が湧き上がる。『いつも』と言うほど、ブリジット様はここへ来ているのだ。

 しかも執務机の向こう側に立っていて、もしフィル様が椅子に座っていたら肩が触れ合うほどの距離だろう。当たり前のようにブリジット様がいる空間に長居したくないと思った。

 私の中で渦巻くドロドロとした黒い感情をうまく処理しきれなくて、ついそっけない態度になってしまう。

「いえ……王妃様のご命令で来ただけですので、すぐに戻らないといけません」
「王妃の命令?」

 そんな私の醜い嫉妬なんて消し飛ぶほどの黒いオーラがフィル様から放たれる。

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