オムライスは甘口で
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「納品前に仕様をもう一度顧客と合意しろって何度も言ったよね、石黒さん」
「誠に申し訳ありませんでした」
美雨は自身の感情を押し殺し、課長に頭を下げた。
(またか……)
美雨としてはもちろんそのつもりで準備をしていたが、アポイントを取る段階になって、面倒なことをせずにさっさと納品しろと課長本人がごねたことはすっかり忘れ去られている。
真に受けて言われた通りにした結果、納品したソフトウェアの仕様が間違っていると客先からクレームがついた。
どうやら、相手は上層部と懇意にしている企業だったらしく、課長はお偉方からお叱りを受けたらしい。
そして、自分のことは棚に上げて美雨に八つ当たり。まったく、迷惑なことだ。
それでも美雨は、あなたが言ったんだろうと、心の中で毒づくだけに留めた。
口に出さないのは反論した方が面倒なことになると経験上、わかっているからだ。
美雨が働く『株式会社スマートエンジンソフトウェア』は社員が百名弱しかいない小さなソフトウェア会社だ。
プログラマーとしての仕事そのものよりも、揉めた後の人間関係の方が面倒臭い。
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