オムライスは甘口で
(せめてもうちょっと凛々しい顔つきだったらなあ……)
美雨はいわゆるたぬき顔というやつで、目は垂れ気味で、頬はぷっくり、輪郭は丸形。シャープな印象とは程遠い。良くいえば親しみやすく、悪くいえば舐められやすい。
美雨とは逆に彼はキリっとした切れ長の目で、スッと伸びた鼻梁にクッキリとした顎のラインをしている。それこそ、口の悪さを忘れてうっかり見惚れてしまうくらい。
(彼女……いるのかな……?)
彼のことが知りたいと思う一方で都合の悪い真実は知りたくないと心が揺れ動く。芽生え始めたこの気持ちをもう少しだけ育ててみたい気もする。
「おーい!!そこのOL!!」
交差点で信号待ちをしていた美雨の背後で誰かが声を張り上げる。
信号待ちをしている人の中でOL風の出立ちをしているのは美雨だけだ。美雨は背後を振り返ると、慌てふためいた。
マヒロはこちらに向かって真っ直ぐ歩いてきたかと思うと、美雨の前で足を止めた。
「ほら、忘れ物」
「え!?わっ!!ありがとうございます!!」
マヒロが持ってきてくれたのは空のお弁当箱が入ったミニトートバッグだった。荷物入れのカゴの中に入れておいたのをすっかり忘れていた。
美雨はトートバッグを受け取ると、まるで宝物のように大事に胸に抱えた。
マヒロはコックコートを着たままだった。
忘れ物を届けるためにわざわざ追いかけてきてくれたのだ。