オムライスは甘口で
「あんた、よく来るけどここから家まで近いのか?」
あ、毎週食べに来ていることも覚えてもらえている。ちょっと嬉しい。
「歩いて十五分ぐらいですけど……」
「十五分か……」
マヒロはしげしげと美雨を見下ろした。
何か変なことでも言ってしまっただろうかと急に不安に襲われる。
「最近、この辺で若い女ばかりを狙った引ったくりが出るって話があるんだけど知ってるか?」
「引ったくり!?」
引ったくりが出るなんて初耳だった。一人暮らしの美雨は町内会などにも所属しておらず、近隣の防犯情報には疎かった。
「家まで送ってってやろうか?」
「い、いいんですか……?」
「買い物に行くついでだ」
口は悪いけど、結構優しいんだと感動する。美雨は迷った末にマヒロに送ってもらうようにお願いした。
引ったくりも怖かったが、なによりマヒロとお店以外で話が出来るのが嬉しかったのだ。
マヒロはコックコートを脱ぐと、美雨の隣に並んで歩き始めた。
「今日は随分遅かったな?仕事か?」
「はい、ちょっと仕事でトラブルがあって……」
「何の仕事?」
「システムエンジニアです。産業用のソフトウェアとかを作ってます」
「へー。それは大変そうだな」
美雨からしてみればあんなに綺麗なオムライスを作る方が大変だ。一度家で挑戦したことがあるが、手際が悪かったからなのかフライパンに卵がひっついて上手く返せずチキンライスが宙を待った。
彼が作るオムライスはいつも焦げ目ひとつない。