オムライスは甘口で

「そういえば名前は?」
「美雨です。石黒美雨。美しい雨って書きます」
「俺は真紘。真実の真に糸編に広いって書く」

(真紘さんかあ……)

 予想はどれも外れていたが、『真紘』と言う名前が一番しっくりくる気がする。

「あ、このアパートです」

 帰り道の十五分はあっという間に過ぎ、美雨の暮らすアパートに到着する。

「送っていただいて本当にありがとうございました」
「じゃあな、美雨。ちゃんと顔洗ってから寝ろよ」

 そう真紘に言われた美雨は首を傾げた。

(顔……?)

 不可解な発言にどこか不穏なものを感じたり、美雨は部屋に入ると洗面所に向かった。そして、鏡を見るなり絶望した。

「やだっ!!トマトソースついてる!!」

 まるでチークのように頬にチョコンとトマトソースが付着している。
 真紘は気が付いていたに違いない。

(頬にトマトソースをつけてるアラサー女ってどうよ……)

 美雨は鏡の前でがっくり肩を落とし激しく落ち込んだ。

「トマトソースって!!子供か!!無邪気アピールにもほどがある!!」

 顔を洗い終えた美雨は恥ずかしさのあまりベッドの上をゴロゴロとのたうちまわった。
 気づいたそばから言ってくれればまたマシなのに。
 なんて意地悪な人なんだろう!!
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