オムライスは甘口で
「着いたぞ」
そう告げられると美雨は真紘の腰に巻き付けていた腕を離し、バイクを降りるとヘルメットを外した。
歩けば十五分だが、バイクなら半分の時間だ。しかも、走行中はしゃべることができない。堂々とひっつく理由があって嬉しかったけれど、これはこれで考えものだ。
「送って頂いてありがとうございました。バイク初めてだったんですけど、楽しかったです……」
しどろもどろでお礼を言うと、むにっと頬を引っ張られた。痛くはない絶妙な力加減だ。
「今日はソースつけてないんだな」
「つへへまへん!!」
席を立つ前にお手洗いの鏡で入念にソースチェックをしたのは真紘には内緒だ。
「鼻垂れたガキみたいで可愛かったのに」
「うれひくないでふ!!」
ククッと小馬鹿にされ、美雨はプンスカと腹を立てた。トマトソースのことは割と忘れたい記憶だ。
可愛いと言われたことと、幼稚園児と同じ扱いをされたことでは足し引きゼロだ。
「次にソースがついてたら食っちまうからな。覚悟しとけ」
真紘は最後に美雨の頬をサラリと撫でると、再びバイクに跨った。
「風呂入ってさっさと寝ろよ、美雨」
真紘のバイクはエンジンをふかしながら去っていった。
(食っちまうって……どういう意味……!?)
美雨はその夜ドキドキし過ぎて眠ることができなかった。