オムライスは甘口で
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期待に胸を膨らませた翌週の金曜日のことだった。
店の中に入ると厨房に真紘の姿が見当たらず、代わりに知らない壮年のコックが立っていた。真紘がいないなんて、通い出してから初めてのことだった。
美雨は思わずいつものホール店員に真紘の所在を尋ねた。
「え、真紘さん辞めたんですか?」
「ええ、次の仕事があるからって。まあ辞めたといっても……」
真紘が辞めたと聞かされ、目の前が真っ暗になった。美雨の耳にはホールの女性の声も聞こえなくなっていた。
……真紘との唯一の接点が失われてしまった。
「お待たせしました。オムライスです」
あれだけ食べたいと望んでいたオムライスだったが、今は食欲は皆無だ。それでもなんとか胃の中に流し込んでいく。
美雨はすっかり気落ちして、よりどり亭を後にした。
(こんなことなら連絡先を聞いておけばよかった……)
関係を深めるのに及び腰になった結果、何も始まらない内に終わってしまった。
美雨は今にも泣き出してしまいそうだった。