オムライスは甘口で
(結局、来てしまった……)
真紘はもういないというのに寄る辺のない美雨はまたよりどり亭にやって来ていた。
何かの間違いでもいいから彼に会えないかと店の外を十五分ほどウロウロしてみたが、奇跡が起こる気配は一向にない。
(そうだよね……。そう都合よくいくわけないよね……)
美雨は落胆してその場にしゃがみ込んだ。花壇に植えられていたパンジーの花相手に独り言ちる。
「真紘さんのオムライスが食べたいなあ……」
新しいコックが作ったオムライスも美味しかったけれどなにか物足りない。真紘の作ってくれるオムライスは、素朴だがどこか優しい味がした。ひと口食べれば病みつきになり、もっともっとと欲しくなる。
真紘への想いがいつの間にか大きく膨らんでいたんだと自覚する。
しかし、今さら真紘が好きだとわかったところでどうしようもない。
美雨ははあっと大きなため息をついた。
……いつまでそうしていただろか。
「どうした?暗い顔して」
ふと顔を上げると会いたいと願い続けていたその人が目の前にいて、美雨はアホみたいに口をあんぐりと開けた。
真紘はコックコートではなく小綺麗なシャツとジャケットと身につけており、一際よそ行きの雰囲気を醸し出していた。