オムライスは甘口で
「お邪魔します……」
「まあ、適当に座って待ってろ」
真紘に案内された一階は普通の一般的な作りのLDKだった。
真紘はシャツの腕をまくると、対面式のキッチンに入って行った。
冷蔵庫から食材が取り出されるとまもなく包丁の小気味よい音が聞こえてくる。
美雨はダイニングからこっそり真紘の様子を窺った。
コックコートを着ていないラフな私服姿だからこそ、料理姿が逆に絵になる。
鮮やかな手つきで食材を切った真紘は、チキンライスを炒め始めた。
(あ、いい匂い……)
クンクンと鼻を鳴らし二週間ぶりの香ばしい匂いを堪能する。
家庭用のフライパンにも関わらず、真紘はものの見事にチキンライスを卵で包んでいった。弘法筆を選ばずとはこのことだ。
オムライスが皿の上にひっくり返されると、美雨は思わず拍手を送った。
「なんだよ、恥ずかしい……」
「だって……。凄いなあって思ったから」
「これくらい出来て当たり前だっての。こっちは家の手伝いで十三の時からフライパン振ってるんだぜ」
真紘は照れ臭そうに首の後ろを掻いた。
出来上がったオムライスにはたっぷりとトマトソースがかけられた。お店で出しているソースと同じものらしい。
オムライスがダイニングテーブルに届くと、美雨は喜び勇んで口に運んだ。
「美味いか?」
「はいっ!!」
真紘は美雨の食べっぷりがよく見えるテーブルを挟んだ反対側の椅子に座った。
いつもはカウンター越しに見ている真紘の顔が近くにあり少し緊張する。真紘はテーブルに頬杖をつき、美雨が食べ終わるのを口を挟まず静かに待っていた。