オムライスは甘口で

「ほら、やるよ」

 オムライスを食べ終わりひと心地つくと、真紘はおもむろに胸ポケットから名刺を取り出した。

 受け取った名刺に視線を落とした美雨は驚いた。
 箔押しの立派な名刺にはフランス語と思しき店名と肩書き、そして真紘の名前が刻印されていた。

「スーシェフ?」
「まあ、日本語でいう副料理長ってところだな。『ルイス・ギャザリン』っていうフレンチレストランで働いている」

 店名を聞いて、美雨は更に驚いた。

「『ルイス・ギャザリン』ってあのミシュランの星つきの!?」
「なんだ。知ってんのか」

 知っているもなにも『ルイス・ギャザリン』は日本一予約が取れないフレンチレストランとして有名だ。
 美雨も両親の結婚三十周年のお祝いをしようと予約を試みたことがあったが、半年先まで予約が埋まる人気ぶりに諦めたことがあった。

「元々フランスの本店で働いてたんだが、日本にもう一軒新しい支店を出すってんで休暇も兼ねて戻ってきたんだ。本格的なオープンは半年後ってことでまだ時間があったし、親父の持病の腰痛が悪化して動けないって泣きつかれて代打で厨房に立ってただけ」

 事の顛末を聞いた美雨はしゅんと項垂れた。

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