オムライスは甘口で
「またオムライスか?たまには他のメニューも頼めよ」
美雨は思わぬ方向から突然呆れ声を浴びせられた。声の主人はカウンターの向こう側にいる。襟にグレーのラインが入っているブラックのコックコートを着た男性はホールから渡された伝票に目を通し、うんざりしたように息を吐いた。
美雨も負けじと言い返す。
「いいじゃないですか!?美味しいんだから」
「わざわざ言われなくても美味いのはわかってんだよ。なんたってこの俺が作ってんだからな」
彼は自信満々で美雨の屁理屈を笑い飛ばすと、慣れた手つきで冷蔵庫からオムライスの材料を取り出していった。
年齢は三十代前半だろうか。髪は明るハニーブラウンで、サイドが剃り上げられたツーブロックだ。上背はあり、美雨なら絶対に届かない棚の上にあるボウルも鍋も悠々と手に取ることができる。
重い鉄のフライパンをいつも煽っているせいなのかコックコートの袖から見え隠れする二の腕は鍛え上げられがっしりしていた。
カウンターからはオープンキッチンさながら美雨が注文したオムライスが作られていく様子がまざまざと見えた。
みじん切りの玉ねぎとマッシュルームが入ったチキンライスがコクのあるバターで炒められる。
フライパンが返されるたびにチキンライスが硬めに焼いた卵に包まれていく。
そして、最後に甘酸っぱいトマトソースが黄金の丘に垂らされる。
なんて芸術品だろう。
美雨の口の中にじゅるりと唾液が出てくる。