オムライスは甘口で

「お待たせしました。オムライスです」

 皿が目の前まで運ばれてくると、もうたまらなかった。
 美雨は喜び勇んで黄金に輝くなだらかな丘をスプーンで割った。ライスと卵はぜひとも一緒に食べたい。

「美味しい……っ」

 口の中いっぱいに広がるチキンライスの甘みと香ばしい風味に酔いしれる。

(やっぱ金曜日はオムライスだよね。課長の理不尽に耐えた日は余計に沁みる……)

 美雨はひとりでうんうんと頷いた。
 課長の怒鳴り声もこのオムライスを前にしてはスパイスのひとつにすぎない。
 美雨は残業の疲れも忘れ、一心不乱にオムライスを口に運んだ。
 
「ごちそうさまでした」

 米粒ひとつ残さぬように完食し、幸せな気持ちで手を合わせる。

(なんであの人が作るオムライスはこんなに美味しいんだろう……)

 美雨はチラリとカウンターの向こうに視線を向けた。
 厨房ではあの口の悪いコックが美雨に背を向けるようにして、コンロの上の寸胴鍋をお玉でかき回していた。

 美雨が金曜日によりどり亭を訪れる時は、必ず彼が厨房にいる。
 ……いや、美雨は彼がいるから金曜日によりどり亭にやってくるのだ。

 美雨が『よりどり亭』にオムライスを食べに来るようになったのか。
 二ヶ月前のあの出来事がきっかけだった。
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