オムライスは甘口で
「ちょっと、そこのあんた。食べるつもりがないなら出て行ってくれる?すっかり冷めてんだよ、カウンターの上のビーフシチュー」
美雨と男の会話に割って入っときたのはカウンターの向こう側に立っていた長身のコックだった。
「は?いきなりなんだよ」
男は席から立ち上がり声を荒げたが、コックは怯えることもなく微動だにしない。
「その気もない女をいつまでも口説いてんじゃねーよ、往生際が悪い。自分じゃ上手いと勘違いしてるだけで、実際はそうでもないだろ」
悪びれもせず毒を吐くコックに美雨はプッと吹き出してしまった。実は美雨も同じように思っていたからだ。
「二度とくるかこんな店!!」
二人にコケにされた男は、顔を真っ赤にし盛大な捨て台詞を吐いて店から出て行った。……お会計もせずに。
(うわ……サイテー!!)
重ね重ねのマナー違反に美雨は憤慨した。しかし、今更戻ってこられても困る。帰ってくれて清々した。昼食代は勉強代だと思おう。
「お連れさんはどうするの?食べるの?食べないの?」
「食べます!!」
「あ、そう」
一緒に昼食を取るという名目で待ち合わせをしていたので、実はお腹がぺこぺこだったのだ。
(商店街の裏にこんなお店があったんだなあ……)
お店のチョイスは完全にあちら任せだった。
美雨はひとり暮らしを始めて以来、同じアパートに住んでいるが、一駅隣の商店街にこんな洋食屋があるとは知らなかった。