オムライスは甘口で
何気なく口にしたオムライスだったが、美雨は驚きのあまり目を見張った。
(うわっ!!なにこれ!?すごく美味しい!!)
街の洋食屋とは思えないクオリティに、スプーンが止まらなくなる。
食べずに帰るなんてもったいないことせずに済んでよかった。
提供されてから時間が経ち冷めていたことを差し引いても、十分に美味しかった。
これまで美雨が口にしたことがあるオムライスの中でも間違いなく一番だ。
(そりゃあ……怒るよね……)
こんなに美味しい食べ物を粗末にするなんて美雨だって許せない。美雨はあの男が一切手をつけなかったビーフシチューの皿にスプーンをのばすと、そのまま平らげてしまった。
どうせお金を払うんだから美雨が食べても構わないはずだ。
(うう……さすがに食べ過ぎた……)
美雨ははち切れんばかりのお腹を押さえながらレジカウンターに伝票を持っていった。
「お会計、千円です」
店員から告げられた金額を不審に思い、お札を出す手が止まる。
「あの……?ビーフシチュー代は?」
「あの口の悪いコックが『逃げた男の分まで食事代を貰うわけにはいかない』だって。ですから、ビーフシチューのお代は結構です」
「そんなっ!!こちらが悪いんですから受け取ってください!!」
美雨は余計に出した千円札をトレーの上に置いたが、店員は決して受け取らなかった。
「うちのコックがお連れ様に無礼を働いたわけですから気にすることないのよ」
「でも……」
「良かったらまた食べに来てくださいね。口は悪い奴だけど、料理の腕は悪くないはずだから」
ニコニコと愛想良く言われ、美雨は渋々引き下がった。