オムライスは甘口で
オムライスの味と帰り際に見た彼の横顔が忘れられず、美雨は翌週もよりどり亭を訪れた。
案内されたカウンター席に座り厨房に目をやると、この日も例のコックが調理を担当していた。
「今度はひとりか?」
彼からカウンター越しに声を掛けられる。すっかり美雨の顔は覚えられてしまったようだ。目の前であれだけの騒ぎを起こされたら忘れる方が難しいだろう。
「先日はお騒がせしてしまってすみませんでした」
「別に大したことはしていない。礼なんていらない」
「……好きなんです」
ポロリと口からこぼれ落ちた言葉に美雨は一拍遅れて慌てて付け足した。
「オムライスが!!」
こうして、美雨はよりどり亭の常連になったのだった。