Rebuild ~SEな元カレは彼女との空白の5年間をとり戻したい~
1章:再会
「おい……。おい、芦川!」
大きな声が聞こえて、パチッと目を覚ました。
一瞬、自宅マンションの部屋かと思ったけど、目の前にいるのは黒い短髪に178センチと身長も高い男性。野球部だったためか、SEとしては少し珍しく体格のいい、同期の 水原光暉だ。
私が寝ていたのは、株式会社NOEシステムの医療事業部門のフロア奥にあるパーテーションで仕切られた小さなスペースの中。
フロア内の4つ角に打ち合わせ用のスペースがあり、小さいがソファもある。この入って左前のスペースは、もっぱら終電を逃す私が使わせてもらっていた。
最初は先輩社員に譲ろうとしたのだけど、みんなこのスペースまでの数十歩が面倒だと言って、デスク下に転がっていたり、椅子を並べて寝ていたりするので、他の3つの同じようなスペースすら使われていない。
結局、誰も使わないのももったいないので、唯一女性で泊りの多い私は、いつからかここを使わせてもらうようになった。
「アラームかけずにぐっすり寝ちゃってた。起こしてくれて助かったよ、ありがとう」
うーん、と両手を伸ばしながら言う。
最初はデスクで仕事をしていたのだけど、昨日の分のタスクが終わったときにはもう深夜。
なんとか眠い目を擦り、最後はここに本を持ち込んで眠るギリギリまで勉強をしていたのだ。
見上げると水原が顔をしかめる。
もうすっぴんくらいは見慣れているでしょうよ、と思ってみれば、きゅ、と親指で頬を押さえられた。
「また泣いてた」
そう言われて水原の指の感触で泣いていたことに気づく。慌てて表情を取り繕った。
「あー……夢見てたの。すんごい怖いの」
「どんな?」
「河見病院の精算システムが納期一週間前に仕様書全変更ってやつ」
「それは泣くな。妙にリアルな夢見るなよ!」
「あ、今日が一週間前だね」
「絶対予知夢じゃありませんように! もうバッファないぞ」
水原は両手で後頭部をがしがし掻く。
彼の悲壮な様子を見て、申し訳ないけど笑ってしまった。バッファがない、とは、余裕がない、ということだ。
水原のチームは大きな医療システムの納期一週間前。元は余裕のあるスケジュールだったのだけど、バグが頻発して、今キャッチアップの最中だ。
ちなみに、予定にないトラブルなんていくら技術が向上したってでてくるもので、こういうことは結構ある。なにか問題が起こるたびに潰していくしかない。