Rebuild ~SEな元カレは彼女との空白の5年間をとり戻したい~
NOEシステムはNOEグルーブが所有する35階建てビルの11~15階にある。
親会社のNOEは売上高3兆円、純利益1800億円、従業員数は10万人を超える大企業。そんなNOEのグループ企業であるのが、NOEシステムだ。
ちなみに親会社のおかげで、地下には社食、一階には有名な24時間営業のカフェが入っているビルが勤務地なのが嬉しい。昼も夜も移動販売がやってきて、食事には困らないのもポイントが高い。
カフェに行くと2人ともモーニングを注文し、私は目の前であくびをしている水原に視線を向けた。
水原の目は赤い。
その理由は、彼がSEの中でも珍しく、頑なにコンタクトを貫いているからだと思う。
「水原、コンタクト頑張るね。うちの部署のSEみんな眼鏡になっちゃったのに」
それは泊まりや長時間作業が多いからだ。
納期前は数分、数秒でも寝てほしいから無理してコンタクトにすることないのにと考えていると、水原はじっと私を見つめた。
「お前、眼鏡じゃないほうが好きじゃん」
「え? 眼鏡の人も好きだよ?」
「早く言えよ! 頑張ってコンタクトしてたわ」
「水原、頑張らなくてもモテるじゃん」
眼鏡でも眼鏡じゃなくても水原はモテている。
他の同期に聞いたのだけど、この前合コンで一番人気だったくせに連絡先を誰とも交換せずに、仕事に戻るからと帰ってしまったらしい。
水原は、お前やっぱ意味わかってなさそう、と不機嫌に呟いて続けた。
「っていうか芦川はなんで目が悪くならないの? 2.0ってうちでは芦川だけだよ」
「しかも2.0も楽々見えて、それ以上ありそうなんだけどね。測れないの」
「うらやましい奴」
「ふふ。でも、いいのは視力だけだよ。私は水原みたいにエンジニアの知識が欲しいよ」
勉強してわかることも増えたが、システムエンジニアではないので分からないこともいまだに多い。
入社区分で、水原は転勤や配置換えのある総合職でSE、私は転勤や配置換えのない限定職で専属の営業アシスタント。もちろん、待遇だけでなく、入社の難易度も全然違う。
アシスタントの私は知らなくてもいいこともあるのだろうけど、知っていると相手が話している内容もわかるし、仕事の幅がぐんと広がる気がしていた。
だから毎日少しでもわからないことがあれば、必ず勉強して解消して眠るようにしている。
(私は昔から要領がよくないから、余計頑張らないといけないんだけどね……)
そう思ってコーヒーを一口飲み、視線をカフェの窓の外に向ける。ちょうどNOEの早い人たちが出勤し始めている時間だった。
なんとなくぼんやり人の流れを見ていると、ふと視線が、180を超える高身長の男性にとまった。
「か、神流、さん……?」
(いや、まさか……。彼のはずはない)
彼は5年前上海に転勤になり、3年前にはこの会社を辞めた。
だからああしてスーツ姿でNOEを歩いているなんて、別人だろう。
(夢だけじゃなくて幻まで見え始めたの?)