Rebuild ~SEな元カレは彼女との空白の5年間をとり戻したい~
「芦川、どうした?」
「いや、なんでも……」
ない、とつぶやいたとき、視線の先の彼と目が合った。
思わずパッと視線を逸らすと、次は水原が顔を上げる。
「あれ、神流さんじゃないか……?」
はっきりとした水原の言葉が耳に届く。
ドクン、と大きく胸が鳴った。
水原までそう言うってことは間違いなく彼――神流深月さんなんだ。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
もし、本物ならこのまま通り過ぎてくれないだろうか。
そう願っていたのに、コツ、コツ、とゆっくり流れるように、大理石の床をビジネスシューズでこちらに歩いてくる音がする。
ぴた、と音が停まる。
顔を上げられないままでいると、懐かしい低い声が鼓膜を揺さぶった。
「芦川、水原。久しぶりだな」
その声に不覚にも泣きそうになる。
雫、と下の名で呼ばれないのは当然で、この泣きたい感情が、懐かしさからか、はたまた苗字を呼ばれたせいなのかは分からなかった。
泣いてはいけないと、唇をぎゅっと結んだ私を見て、水原が答えてくれる。
「あ、はい、お久しぶりです。神流さん、SE仲間では話題もちきりですよ。KANNAクリエイトで働きたいって希望者多くて、倍率もすごいんでしょ」
「本当にありがたいことにな」
「それで……今日はどうされたんですか?」
「今日、営業の浅間さんと打ち合わせがあるんだ」
「そう、なんですか。芦川、聞いてた?」
水原のトーンが少し下がる。私はフル、と首を横に動かす。
そして浅間さんとの先日の会話を思い出していた。