Rebuild ~SEな元カレは彼女との空白の5年間をとり戻したい~
頼まれてPCの予約システムから会議室を予約してからその会議室に向かった。
神流さんの後ろについて歩くと、まだここに彼がいた時を思い出す。
入社して右も左も分からない私の指導をしてくれて、小さな疑問にも嫌な顔ひとつせず答えてくれた。
失敗しても怒られることはなかったけど、失敗を恐れて動かなかった時は怒られた。
彼はいつだって誰にだって分け隔てなく優しくて厳しい。
教育を担当していた私だけでなく、他の社員や、受注先、下請け会社のその誰もに信頼されていた。
部屋に入り、斜め向かいに二つ席をあけて座る。
座るなり表情を変えずに神流さんは言った。
「久しぶりだな。少し痩せたけど、ちゃんと食べてるか?」
「食べてますよ。それより、聞きたいことって何でしょうか?」
「一之宮先生とはうまくやれてる?」
「うまくかはわかりませんが……でも悪い感触ではないです。だから国立にも好感触な話をしてくださっていたのだろうし」
少し黙り込んだあと彼は口をもう一度開いた。
「あれから、大変だったか?」
揶揄うでも、労わるでもなんでもない、平坦な声。
それでも、彼を見上げると思わず言ってしまっていた。
「そ、そんなの大変だったに決まってるじゃないですかっ」
本当に言いたいのはこれじゃない。もっとプライベートなことだった。
それでも、今、怒っていいのは仕事のことだけだ。