Rebuild ~SEな元カレは彼女との空白の5年間をとり戻したい~

「あ、あんな大きなとこのシステム、神流さんでなければとれなかったし、保守だって無理でしたよ」
「そうか」

 私の震えた声だけが室内に響く。彼は落ち着いた様子で頷いただけ。

 大きな受注を取った後、一年もしない間に彼は上海に転勤になった。
 その後も上海からアドバイスをもらいながら進行していたけど、本当に大変だった。

 あの日々のせいで、私も水原も急激な成長を余儀なくさせられた。

 ぎゅ、と強く唇を噛んでしまうと、少しだけ彼の眉が動く。

「でも継続契約できてるんだろ。よく食らいついて頑張ってる」
「それは、みんな必死でやってきたから……」
「芦川は?」
「私はただのアシスタントですから」

 下を向いて言うと急になだめるような声が振ってくる。

「ほら、そこで一歩引くな。昔からそうだよな、雫は」
「っ……!」

 突然名前を呼ばれて、はじかれたように顔を上げた。

 もう二度と、彼からは聞くこともないと思っていた自分の名。
 あの時、大好きになった自分の名前だ。

「下の名前で呼ばないでください」
「さっき、水原も雫って呼んでただろ」

「水原も名前で呼んでません。もしそうだとしても、仲のいい同期に呼ばれるのと、取引会社の人間に呼ばれるのとでは訳が違います」

「俺が元彼氏でも?」

 はっきり言われて言葉に詰まる。
 そう。神流さんは、私の初めての彼だ。
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