ダイエット中だけど甘い恋を食べてもいいですか?
軽く体操をしてから、とりあえずアダクターというトレーニングマシンに挑戦してみることにした。

これは太ももの内側の筋肉を鍛えるマシンだと、トレーニングプランには書かれてある。

マシンに座って背筋を伸ばし、両膝の内側にパッドを当てる。

そして膝の内側でパッドを押して、股関節を閉じる。

これを繰り返し15回。

太ももの内側がつりそうに痛い。

けれどなんとか目標回数をやりとげた。

そして背筋を鍛えるマシン、腹筋を鍛えるマシンなどを続けて行う。

「んっ!」

小さな声でそう気合を入れた。

そしてついに、ランニングマシンに挑戦だ。

私はランニングマシンに乗り、慣れない手つきでスタートボタンを押した。

すると急にスピードが出て、止まらなくなってしまった。

「え?え?」

スピードを落としたいけれど、どのスイッチを押せばいいのかわからない。

どうしよう、どうしようとあたふた足を動かしていると、突然ランニングマシンの速度が遅くなった。

「???」

ふと横を見ると、黒ずくめのウエアを着た背の高い男性が、私のランニングマシンの速度ボタンを下げてくれていた。

男性は少し呆れたような顔をして、私に言った。

「初心者なのにスピード上げ過ぎ。転ぶぞ?」

「スミマセン!スミマセン!ありがとうございました!でも、初心者って、なんで・・・」

「見てれば判る。初めて見る顔だし、マシンの使い方もたどたどしいし。」

(・・・もしかして私、浮いてる?!)

両手で頬を挟みながら、小さな声でそう独り言をつぶやいた私に、男は笑いを堪えながら言った。

「この時間帯は常連ばかりだから新入りは目立つの。ただそれだけ。」

先生が生徒に諭すようにそう言うと、その男は自分のランニングマシンへ戻っていった。

私はその若い男が、真剣な表情でランニングマシンを走るその横顔をみつめた。

長い前髪を右サイドに流した黒髪、笑った時に柔らかく細める優し気な瞳、少し厚ぼったい唇を持つその顔は、精悍で男の色気を放っていた。

ほどよく筋肉がついた身体も、当然のように引き締まっている。

「カッコイイ・・・私も頑張らなきゃ。」

私は今度こそスピードを出し過ぎないように、ランニングマシンでゆっくりと走り続けた。

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