ダイエット中だけど甘い恋を食べてもいいですか?
そんな順の様子など気にもとめず、私はスマホから母のLINEアカウントを開いた。

「昨日、お母さんからラインが来たの。なんだかんだで上手くやってるみたい。」

「ふーん。どれどれ?」

順がスマホ画面を覗き込んだ。

そこには父と母が農作物に囲まれて、満面の笑みを浮かべている写真が映し出されていた。

「うわっ。茄子がいっぱい!」

「お父さんとお母さん、もうすっかり土地になじんでるね。」

「今度遊びにおいで、だって。」

「わー行きたい!」

父は祖父から引き継いだ洋食屋を35年間経営していた。

美味しいカレーを食べさせてくれる店として度々雑誌やテレビ番組でも取り上げられるほどの人気店だったのに、ある程度のお金が貯まったといって、一昨年の春に常連客に惜しまれながら店を閉めてしまった。

そして父が選んだ第二の人生とは、母と一緒に自然の豊かな土地で野菜を作り、田舎住まいをするというものだった。

都会で生まれ育った両親にそんな暮らしが出来るのか、私達姉弟は心配だったけれど、たった一回きりの人生だし、そんなに言うなら挑戦してみれば?と四国の暖かい土地へと送り出した。

最初こそ苦労したようだったけれど、一年も経つと軌道に乗って、土地の人達にも仲良くしてもらっているとのことだった。

両親は私達の元へ、とれたて野菜や土地の特産物などをしょっちゅう送ってきてくれる。

その野菜を使って作る料理は、また格別なのだ。

けれど私や順が両親と一緒に田舎へ行く、という選択肢はなかった。

順は第一志望で受かった大学を辞めることなんて出来っこなかったし、私もせっかく就職できた会社をそう簡単に辞めるわけにはいかなかったのだ。

だから今現在、家族4人で暮らしていた4LDKのマンションに、残された私こと久保田芽衣(くぼためい)とその弟久保田順(くぼたじゅん)はふたりで暮らしているのだった。

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