学校1の王子様は、初恋相手を甘やかしたいようです!
学校1の王子様に告白されました!?
「好きです。俺と、付き合ってください。」
突然……本当になんの前触れもなく告白されてしまいました。
しかも、相手は学校一の王子様と名高い一ノ瀬 湊斗(いちのせ みなと)先輩。
対する私は、そこら辺に普通に存在してそうな、一般人。
もっと言えば、小説や物語の中ではただのモブにしかなれないような……そんな地味な見た目をしている。
そのため、当然異性からモテたことなんてなく……。
この状況をうまく飲み込めずにいる。
どうして私なんだろう?
一ノ瀬先輩とは委員会が同じで、何度か話したことはあるけど……。
そう、目の前にいる眉目秀麗な先輩とは、初対面……というわけではない。
私が入った図書委員会で2年生ながらに見事委員長を務めている……そんなすごい人。
むしろ喋ったことがあるからこそ、なんで私を好きになったんだろう?と疑問に思ってしまうほど、雲の上の存在。
噂では、お父さんが会社を経営していて、お母さんがどこかの財閥のご令嬢……そんな両親を持っているとか。
“先輩が私のことを好き”
そんなこと、あるのかな?
うーん、と頭を捻ってみるものの、いまいちピンと来なかった。
私、特に先輩に何かしたわけでもないし、普通に話してただけだよね。
他の役員と同じように。
それに、先輩だって、そんなそぶり見せたことはなかった……。
友達から鈍感と言われている私が気づかなかっただけかもしれないけど。
でも、ありえない……という気持ちがあまりにも強すぎて……。
告白する人、間違えちゃったのかな……?
そんな考えまで頭をよぎったんだ。
だけど、本当に私に対しての告白だったら、他の人と間違えたなんて考え、先輩にとても失礼だし、そんなこと告白相手に思われてたら私だって嫌だ。
そう思い直し、言葉にすることはなかった。
そんなことより……
考え込んでしまっていたせいで下げていた頭を上げて、もう一度先輩の方を見る。
その綺麗な顔と再び目が合う。
先輩は、不安と緊張が入り混じったような表情をしていて、長い間黙っててしまったことを申し訳なく思ったんだ。
「先輩……。気持ちは嬉しいんですが、先輩の気持ちには応えられません。」
それで私は噤んでいた口を開いて、お断りの言葉を告げる。
その言葉に、先輩は目に見えて絶望したような表情になる。
先輩にこんな顔、させたくなかったな。
本当は私だって良いお返事をして、先輩と付き合いたかった。
でも、そうできない理由があるんです。
「どうしてか、聞いても良い?」
苦しそうに、でも少しでも可能性があるなら……という先輩の気持ちが伝わってきて、私の気持ちはさらに落ちていく。
伝えなきゃ、いけないのかな。
先輩を、傷つけるだけなのに……。
そこまで思った瞬間、私はあることを思い出したんだ。
誰かが言ってた、そのセリフを。
『期待させるくらいなら、冷たい態度をとって諦めさせるのも、優しさだよ。』
流石に、冷たい態度をとるなんてことは私にはできないけど、けど……期待させてしまって、先輩がまた傷つくくらいなら……
言った方が、良いよね?
「私……、好きな人がいるんです。」
重い口を開き、私は事実を告げる。
先輩はすごく良い人ですし、私には勿体無いくらい人望もあって、誰にでも優しくて、勉強もできて……
女子からも男子からも絶大な人気を誇っています。
だから、付き合いたいって思う女子なんて、星の数ほどいて……。
そんな中で私のことを選んでくれるのは、本当に嬉しいことだし、できれば気持ちに応えたかった。
……でも、先輩じゃ、ダメなんです。
私は……もうずっと。
それこそ10年以上……片思いをしてるんです。
だから、先輩みたいな人気者だったとしても、告白を受け入れることはできないんです。
先輩に対して、不誠実になってしまうから。
……告白されて、気持ちが動いたら、どんなに楽だろうな。
だけど、私は近頃そんなことを思ってしまう。
好きな人がいるんじゃないの?って聞かれたらそうとしか言えないけど……。
だって、私の好きな人には……彼女がいるから。
そろそろ諦めないとなって、思ってる。
諦めたいって……。
でも、どんなにかっこいい人に告白されても、靡かないんだもん。
それくらい……好き。
頭の片隅にはいつもその人がいて、ふとした時に浮かぶのは、いつもその人の笑顔で……。
その人の好きなものとか、好きなことを目にすると、こんなことあったなっていつでも思い出して……。
信じられないくらい、その人のことが好き。
だから、簡単に諦めることなんてできなくて……。
でも、結ばれないのはその分とても辛いもので……。
先輩の告白にだって、この人のことを好きになれたら良かったのになって思ってしまうくらい。
「……それって、噂の幼馴染くん?」
しばらく沈黙が続いた後、先輩が放った言葉に、私は顔が赤くなってしまった。
「そう、です……」
バレバレだったかな、と頬を押さえながら頷く私を見て、先輩は「ベタ惚れだね……」なんて悲しそうに言ったんだ。
好きな人が他の人のこと考えてるのって、嫌ですよね……。
私は慌てて頬の熱を冷まそうとしたけど、一度思い出してしまったら、その人が頭から中々離れてくれなくて……
「そっか……。でも、諦めないから。」
……えっ。
先輩の宣言に顔を上げると、先輩はふっと笑顔になって、
「香恋ちゃんに、幼馴染くんより好きになってもらえるように頑張るね!」
そんなことを言ったんだ。
本当、先輩はずるいです。
そんな恥ずかしくなるようなこと、サラッと言ってのけてしまうんですから。
「だから……」
聞き取れるかギリギリの声量で放たれた言葉に、どうしたんだろうと思っていると、先輩が近くに寄ってきていることに気づく。
ん?
えっ、待って……なんで近づいてくるんですか!?
先輩の顔が後数センチという距離で、私がぎゅっと目を瞑ると、
「……覚悟しててね。」
耳元でそう囁かれたんだ。
「……つ!?」
男子に免疫なんてない私は、そんな行動にドキドキしてしまい、耳まで真っ赤になってしまう。
もう、急にびっくりするじゃないですか。
むぅ……と、私が抗議の意を示して頬を膨らませると、先輩はクスッと笑って、「可愛い」なんて言ってきたんだ。
先輩は一体……私のことどう見えてるんですか?
そう思ってしまうのも無理ないくらい、私は美人でもなければ、可愛くもない。
好きな人は多少美化されて見えてしまうものだけど、それでも限度があるだろうし……。
それに……
「……じゃあ、また明日。ごめんね、長い間引き止めちゃって。」
先輩の言葉に思わず私は時計を見る。
もう6時前になっていたんだ。
えっ、嘘……。
「先輩すみません。私、用事があるのでもう行きますね。また明日、委員会で!」
私は早口で伝えると、バタバタと急いで教室に荷物を取りに行き、家まで向かったんだ。
< 1 / 2 >