Princess Floria
その昔、最高神アマテラスは言った。
「はぁ~、どいつもこいつも1人に仕事押し付けすぎだっての。しかも拘束時間は長いのに給料は低いし、残業代は出ないしで、どんなブラック企業だよ。もうやってらんねーから俺パース、おやすみー」
そして次に派遣された神々も同じようなことを言い、とうとう打つ手がなくなってしまった。
困った神官たちは、こんなに人間味のある神ならば普通の人と同じことが通用するのでは?と考え隣国の絶世の美女と評判の姫に「神達がやる気を出すように、なんかこう、甘いセリフだとか、とにかくその綺麗な顔でなんとかしてくれ」と懇願した。
姫は「私は綺麗な顔なんてしていませんし、お役に立てるかわかりませんが、そんなにお困りでしたら」と不安げに微笑みながら引き受けたという。
そしてこうして神殿にきているわけだが
「…はぁ…本当に静かね…」
フローリアはため息混じりに本のページをめくった。
神殿に来てもう1週間が過ぎようとしてるのに、フローリアはまだ1度もちゃんと神達と話したことがなかった。
というのも肝心の神達ときたら、全員揃いも揃って見事な昼夜逆転生活をしていたからだ。
部屋に行けば鍵がかかっており入ることはできず、ドアをノックすれば返事がないか、怒鳴られるばかりでそろそろ参っていた。

「うっわー、久々の太陽、まっぶしー」
「えっ…」
突然背後から声が聞こえフローリアは慌てて振り返ると、見事な赤毛の男の背中が見えた。
「あれは…」
フローリアは神官達から事前に教えて貰った、神達の姿絵やその特徴などと照らし合わせた。
あんなに会いたいと願っていた神との突然の遭遇に、どうしたらいいのか頭が真っ白になったが、読んでいた本を閉じ、小走りで男を追いかけ
「あの…すみません」
と声をかけると
「あ゙あ゙??」
機嫌の悪そうな声と鋭い視線がフローリアに降り注いだ。
「ご、ごめんなさい…急に話しかけてしまって」
「ん、お前…」
赤毛の男は獲物を見つけたような眼差しで、人差し指でグイッとフローリアの顎を持ち上げ
「人間にしてはなかなかの美女じゃねえーか、悪くない」
と荒々しく言われるとフローリアは顔を真っ赤にさせ目を大きく逸らし
「えっ…あ、ありがとうございます…」
と弱々しく呟き、赤毛の男はどこか満足そうに顎クイを辞めた。
「で、人間がなんでこんなところにいるんだ」
「それは…神様達にちゃんとほしくって…」
フローリアは更に声を細くさせなんとか言葉を紡いだ。
「ははは、どーせそんなことだろうと思ってた。んじゃあさー…」
「えっ…きゃあ…」
男は左手でフローリア両方の手首を掴み、そのまま頭上にバンと叩きつけ、再び右手の人差し指で顎をクイッと持ち上げた。
「ちゃんとしたらお前はなにかしてくれるのか…?」
と色っぽく囁かれた
「…っ、それは…」
「ははは、できねぇーだろうなー、見るからに箱入りのお嬢さんだもんなー」
「…確かに私に出来ることは限られてます、それでも出来ることは全力でしたいと思っていますのでどうか…」
フローリアの大きな瞳が琥珀のように煌めき、白い肌を僅かに赤くさせ男を真っ直ぐと見つめた。
その表情ときたら老若男女を一瞬で魅了させるだけのものだった。
「わ、わかった…」
今度は男が大きく目を逸らすとバツが悪そうに
「ま、まあ少しだけなら…考えても…」
「本当ですか!!」
フローリアのプレゼントを貰った子供のようにはしゃいだ笑顔を見ると
「明日の朝…起こしに来てくれ待ってる…」とだけ言って男は早足で踵を返した。

「全く、なんで私が普段最低限しか目を合わせなかったり、笑わないでいるのか、そんなことも分からないなんて神様って意外と単純なのかしら。次はもっと手ごたえのある神様だといいのだけどね…」
フローリアは手鏡を取り出し、冷めきった目で自分の顔を見つめた
「はぁ…それにしてもこんなにも美しいって退屈ね、神様に見初められることですら作業になるんだもの」
ため息混じりに呟き手鏡をしまうと、何事も無かったかのように本の続きを読み出した。
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